【第12回】第五章 中小企業対策の骨格---都市と地方の所得格差を埋める(後編)
~「強い日本」は日本国民がつくる、
そのために乗り越えるべき2つの課題とは~

【第11回】はこちらをご覧ください。

道州制とユーロ

安倍晋三政権は、国家戦略特区を推進すると同時に、ついに道州制についても議論を始めた。「字義的」な意味通りの道州制を我が国が本当に導入した場合、国家戦略特区以上に地方経済にとって致命的になるだろう。

念のため書いておくが、自民党の言う「道州制」がいかなるものか、未だ実態は明らかにされていない。本章で取り上げるのは、あくまで「字義的」な道州制である。すなわち、新古典派経済学的な道州制である。

道州制とは、日本の都道府県を10程度の道州に再編し、各道州に税源と権限を委譲。これによって道州同士が「市場競争」を展開することで、効率的な地方自治が実現できる、という「アイデア」なのである。

これだけ聞くと、何となく、

「各道州が競争することで、効率が高まり、素晴らしい」

という感想を抱くかもしれない。とはいえ、現実の日本の道州が「市場」で競争を繰り広げると、確実に「勝ち組道州」と「負け組道州」に分かれていく。負け組となった道州は、経済が低迷し、当然ながら税収も減る。税収が減ると、インフラや各種の公共サービスに同州政府が十分な支出をできなくなり、人口の流出を招く。

各道州が「同じ条件」で競合すると聞くと、一見、公正なようにも思える。だが、国家とはそういうものではない。

道州制を採用した日本が、いかなる未来を迎えるのか。実は、現在のEU(欧州連合)を見れば、想像がつくのである。

EUとは、各加盟国が互いに「関税」を撤廃し、サービスの制度も統一。人間(労働者)や資本の移動も自由化し、さらには「通貨」も統一。各国が同じ条件で市場競争を繰り広げ、見事なまでに「勝ち組国家」と「負け組国家」に分かれていった。

勝ち組はもちろんドイツ(及びオランダ)で、負け組がギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの南欧諸国である。勝ち組のドイツは貿易黒字に牽引され、経常収支全体も黒字化(ドイツは2001年まで経常収支赤字だった)。EU云々以前に、元々生産性が極めて高いドイツは、南欧の低生産性諸国に自動車をはじめ、様々な製品を売り込んでいく。対する南欧諸国側は、関税や為替レートにより自国市場を「防御」することができず、ひたすら対独貿易赤字を拡大していった。

すでに解説しているが、貿易収支とは経常収支の一部である。ユーロ主要国の経常収支の推移を見ると、あまりにも偏った状況になっており、非常に興味深い。

先述の通り、ドイツは2001年までは経常収支赤字国だった。1999年1月1日に決済通貨としてユーロが導入され、2002年1月1日には現金通貨としての共通ユーロの流通が各国で始まる。

結果的に、ドイツはいきなり経常収支黒字国に転換。2009年のユーロ危機勃発まで、ドイツ、オランダという「勝ち組」がひたすら黒字額を拡大し、反対側でスペイン、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなどの「負け組」の赤字額が膨らんでいった。

【図5-3 ユーロ主要国の経常収支の推移(単位:10億ドル)】

出典:IMF(国際通貨基金)『世界経済見通し』2014年4月

関税を撤廃し、国境を越えたモノの移動を自由化する。さらに、サービスの制度も統一。資本(カネ)や労働者(ヒト)の移動も自由化し、加えて通貨を共通とする。

すなわち、各国が「国境」という防壁を取り払い、統一ルールの下で競争した場合、必ず生産性が高い国が勝つことになる。EUでいえば、独蘭両国だ。

09年以降は、負け組の欧州諸国の経常収支赤字が急収縮している。もはや、南欧諸国にはドイツなどからの輸入を拡大することはできない、という話だ。とはいえ、09年以降も独蘭両国の経常収支の黒字拡大傾向は続いている。特に、12年以降のドイツやオランダは、市場をユーロ圏内からユーロ圏外にシフトさせたということになる。

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