官々愕々 竹富町「教科書問題」の本質
育鵬社の中学公民の教科書---育鵬社のwebサイトより 

沖縄県竹富町が採択を拒否した育鵬社の中学公民の教科書を、同町が採択した東京書籍の教科書と比較しながら全部読んでみて、驚いた。

ことの経緯を一言で言えば、沖縄県の八重山地区の石垣市、竹富町、与那国町の3市町は法律上、同一の教科書を使うことが想定されているにもかかわらず、3市町の間の協議が整わないまま、3市町の協議会が育鵬社の教科書を採択するという答申をした。竹富町はこれに従わず東京書籍の教科書を使うことにしたが、これに対して文科省が育鵬社を使えと強制しようとしているという話だ。

マスコミは大きく取り上げたが、手続き論は伝えても、教科書の内容の問題では、基地問題の取り上げ方が育鵬社は少なく、東京書籍の方が手厚いということ以外ほとんど触れていない。触れていても、せいぜい両論併記でお茶を濁している。政治的な問題には「マスコミは公正中立でなければならない」という建て前で問題から逃げているのだ。安倍政権を恐れているというより、反中反韓の気分が強くなっている世論に迎合しているのだろう。

この両方の教科書を読んでみたら、育鵬社の教科書は、「保守色が強い」というような生易しいものではなかった。私がおかしいと思った箇所の100分の1にもならないが、一部を紹介しよう。

本文に入る前の3~4ページの見開きのカラー写真。中央に「世界平和の実現に向けて」と大きな文字が躍り、10枚の写真がある。左上から右に、北朝鮮のミサイル発射、ロシアによる北方領土不法占拠、韓国の竹島不法占拠、中国が領有権を主張し始めた尖閣諸島、左中央に戻って、北朝鮮への制裁を訴える横田夫妻と並ぶ。この写真を見たら、世界平和のためには、ロシア、中国、韓国、北朝鮮と戦わねばという気持ちになるだろう。

次に、前書きで、「日本は・・・・・・中国とも欧米ともはっきり違う文明を作り上げてきた国です」。続く本文第1章第1節では、「日本の文化は、早い時期に中国の文化から自立し、中国とも欧米とも違う文化を築いてきました」と、また中国との違いばかりを強調し、中国の影響を非常に強く受けたという歴史的事実を伝えない。

33ページでは、原発建設について市民の間で意見が対立した場合の解決方法について、「国民全体が原子力発電所と共存して安心して生活できるよう、国や市や事業者が全力で取り組むことが求められます」と、原発建設が是であるかのように記述する。もちろん、福島原発事故で避難者がいることには一言も触れていない。

51ページでは、「今後は・・・・・・国会の議決を経た上で、国民投票による改正の是非が諮られることになります」と、憲法改正を既定事実化する。

立憲主義についての記載がない一方、49ページでは、集団的自衛権を憲法解釈変更で認めるべきだという特異な考え方が、わざわざ紹介されている。

ある新聞で、育鵬社と東京書籍の両方を使ったらどうかという社説も載ったようだが、あまりに無責任ではないか。そもそも、何人の記者が、これらの教科書を「全文」読んだのか。

産経新聞によれば、文科省関係者は「どちらも国が認めた教科書。中身をみないでレッテル貼りすれば、使用している生徒が混乱する」としているそうだが、皮肉なことに八重山地区の協議会委員もこれらの教科書を読んでいないと告白した。読まずに育鵬社が良いと決めるのも一種の「レッテル貼り」。これが混乱の原因だとすれば、文科省の言うこともあながち間違いではないのかもしれない。

『週刊現代』2014年5月24日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。