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世界一のサービス大国・台湾と東アジア政治の行方---10年ぶりの台湾訪問記【後編】
〔PHOTO〕gettyimages

【前編】はこちらをご覧ください。

台湾の「おもてなし」は日本以上

さて、台湾人の日本的な長所について述べよう。

最大の長所は、何と言っても日本顔負けのサービス力である。

日本は2013年9月のオリンピック総会で、2020年夏の東京オリンピック招致を決めた。その際、日本が一番強くアピールしたのが、サービス力、いわゆる「おもてなしの精神」だった。この「おもてなし」という言葉は、周知のように2013年の日本流行語大賞を受賞した。

爾来、日本人は、自分たちが持っているサービス能力は世界一だと自負するようになった。ひいては、自分たちのようなサービス能力、「おもてなしの精神」は、日本民族特有のものであって、外国人は到底真似できないものだとすら思うようになったのではないか。

実は、かくいう私もそう考えていた。今回、台湾を訪問するまでは、である。

サービスの極意は、相手を心地よくさせることだ。その際、最高の境地は、「この人に騙されても、それは自分の責任だ」と相手に思わせるほど信頼させることにあると、私は考えている。俗に言う「ほだされる」という境地だ。

例えば、外国へ旅行に行って、現地の旅行ガイドが誠心誠意尽くしてくれたとする。すると旅行客は、「もしこのガイドに騙されて危険な場所へ連れて行かれたとしても、それは本望だ」と思い至る。それくらいガイドを信用してしまうわけだ。そうなるとそのサービス能力は、最高の境地に達したと言えるだろう。

私はこれまで、世界50ヵ国近くを回ったが、日本国内を除いて、そのような境地に達したことは一度もなかった。それが今回の台北では、何度かそのような感情を抱いたのだ。

一つは、タクシー運転手たちの献身的な仕事ぶりである。

台北で、台湾の茶葉を買いたくて、猫空へ行った。本当はロープウェイに乗って行きたかったのだが、あいにく月曜日でロープウェイが定休日だったため、台北市内からタクシーに乗って行った。日本で買ったガイドブックには、「猫空には100軒近い茶屋がある」とだけ書かれていて、限られた時間内でどこへ行ったらよいか分からない。

そんな話をタクシー運転手にしたら、彼はこう言った。

「私も茶葉には詳しくありませんが、長年運転手をしていて、多くの客を猫空へ連れて行きました。そんな中で、ある一軒の店は、これまで行ったすべての客が、満足そうに茶葉を買っていましたよ」

他の国でタクシー運転手からそんなことを言われたら、こちらが警戒感を強めるのは必至だ。それは運転手とその茶屋とがつるんでいて、客引きをするたびに茶屋からバックマージンを受け取っているに決まっているからだ。私は中国大陸も含めて、世界各地でそんな光景を目にしてきた。

だが、こと台湾に関しては、私はその運転手を信用した。なぜかと言えば、それまで3日間で10回くらいタクシーに乗ったが、そのたびに運転手の親切さに感動を覚えていたからである。タクシー運転手の親切さに感動したという経験も、日本以外にはなかった。

日本のタクシー運転手が親切なのは、日本独特の「職人気質」というもので、「初乗りで730円も取るからには、客を心地よく誘導する」というプロ意識を持っているからだろう。その証拠に、東京のタクシーにはだいたいカーナビが付いているが、あまり使われない。ほとんどの道路が、運転手の頭の中にインプットされているからだ。

だが、台北のタクシー運転手の場合は、同じ親切でも少し違う。プロ集団というよりは、根っから親切なのである。

私が「台湾の政治に興味がある」と言ったら、車を停めてメーターを止め、とことん台湾政治について語ってくれた運転手がいた。「庶民的で美味しい台湾レストランに行きたい」と言ったら、安くて絶品の店を10軒も挙げてくれた運転手もいた。

最終日にホテルをチェックアウトした後、松山空港まで乗ったタクシーの運転手は、空港に着いて車を停めるや、タクシー代金も取らずに運転席から走り出て行った。私は、我慢できなくてトイレに駆け込んだのかと思っていたら、何と空港のカートを引いて戻ってきた。

猫空の話に戻ろう。タクシーは薄暗くて険しい山道をずんずん登っていった。ロープウェイが休日の曇天だったこともあり、道路には人っ子一人見当たらず、私は次第に不安を覚えていった。だが私は、「この運転手に騙されたら仕方ない」と思って、揺られるに身を任せた。

山頂近くで、ようやく運転手は車を停めた。「たしか、この右手の歩道を上がったところにある店ですよ」

そこでタクシーを道路上で待たせたまま、私は急な階段を上って店に入った。

それほど広くない店内では、老婦人が一人で切り盛りしていた。「茶葉を見たいのですが」と言ったら、「社長である息子が出かけているので、私が茶を立てますね」と言って、湯を沸かし始めた。

そして半時間ほどの間に、木柵鉄観音、高山烏龍茶、高山金宣茶、東方美人茶、高級仏手茶、文山包種茶と、6種類もの茶を立てて試飲させてくれたのである。しかも、それぞれ急須に茶葉をなみなみと入れて出してくれた。

「サービス王国」を自負する日本の茶屋でさえ、試飲させてくれるのは、代表的な茶葉1種類か、せいぜい2種類である。しかも、もったいないので小さい急須に、茶葉をなるべく少なめに入れる。

そもそも日本の茶屋の場合、「この客にはこの位のサービスをすればこのくらいの茶葉を買うだろう」という計算のもとに行動している気がする。言ってみれば「計算されたサービス」だ。

ところがその老婦人は、「わざわざ日本から来て私たちの茶を飲んでもらえるのが嬉しい」と言って、次々にたっぷりと淹れてくれるのだ。すなわち、「根っからのサービス精神」なのである。  

もしも私が、6種類もの高級茶をたっぷり試飲した挙げ句、そのまま買わずに踵を返して店を出たなら、茶屋は少なからぬ損失を被るに違いない。同じ事を1日10回もやられたら、店は潰れてしまうかもしれない。私は馥郁たる台湾茶を味わいながら、老婆心ながら心配してしまった。

結局、私は手に持ちきれないほどの茶葉を買ってしまった。「純粋無垢なサービス精神」の勝利である。

この時私は、「根っからの純粋無垢なサービス精神」は、「計算されたサービス」に勝るということを知った。換言すれば、台湾のサービス能力、「おもてなしの精神」は、日本の上を行っているということだ。

と、階下の路上で待っているはずのタクシー運転手が走り寄ってきて、茶葉を持ってくれたのだ。どこまでも「ほだされる」台湾人の極上のサービス精神である。

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