防衛・安全保障
ベトナム船衝突事件から読み解く中国の「尖閣侵攻リスク」

中国の公船が5月2日以降、南シナ海のパラセル(西沙)諸島付近でベトナムの巡視船などに繰り返し体当りや放水をしていた。現場海域で進める石油掘削作業をベトナムに邪魔させないための実力行動である。

衝突はベトナム側の発表であきらかになったが、中国外務省は8日、中国とベトナムの船舶が衝突したという事実関係そのものを否定した。その後、中国は「ベトナム側が衝突してきた」と言い分を修正した。このあたりは階級章などを外してロシアの武装勢力であることを隠しながら、クリミアに侵攻したロシアの手口をほうふつとさせる。

私は3月6日公開コラム以降、一貫してロシアのクリミア侵攻が中国に伝染する可能性を指摘してきたが、わずか2ヵ月で早くも現実になった形だ。中国は「力による現状変更」の意思を変えるつもりはまったくない。

こうした中国の力づくの挑戦は遠からず、東シナ海の尖閣諸島をめぐっても現実になるとみるべきだ。日本は集団的自衛権の見直しはもとより、漁民を装った尖閣侵攻など、いわゆる「グレーゾーン」問題への対応も急がなければならない。

こう書くと、必ず一部から「中国の脅威を煽っている」という反発がある。そういう意見に対しては「起こるかもしれない危機を予想して対応策を考えるのが政治だ」と答えよう。それは原発事故とまったく同じである。原発でも事故が起きる可能性はあったのに「起きない」という前提で政策が展開され、惨事を招いた。

原発反対を叫んでいる同じ勢力が集団的自衛権見直し反対を叫ぶのは、私に言わせれば、やや滑稽でさえある。原発も中国の動向も、日本にとっては同じ大きなリスク要因である。リスクには対応策を整えておくべきだ。見たくないシナリオだからといって、中国の尖閣侵攻リスクから目をそらせてはいけない。

権益の既成事実化を図る中国の戦略

さてそこで、今回の事態を眺めてみよう。

まず指摘しなければならないのは、ベトナムと中国はこれまで比較的、良好な関係を築いていたという点だ。ベトナムも中国も同じ共産党一党独裁である。もともと親和性は高い。防衛省防衛研究所が毎年出している「東アジア戦略概観」の2014年版によれば、実際にベトナムは中国はもとより米国、ロシア、日本、インドなど周辺大国と「全方位軍事外交」を進めてきた。

概観は「南シナ海の緊張にもかかわらず、両国関係はその緊密さを保っている」と書いたうえで、次のように記している。

〈 (2013)年6月に(ベトナムの)サン国家主席が訪中し、両国は漁業管轄機関間のホットラインの設置で合意したほか、トンキン湾での石油・天然ガスの共同探査にも合意した。また8月には王毅外交部長が、10月には李克強国務院総理がそれぞれベトナムを訪問し、両国は南シナ海問題の平和的解決へ向けた協力で合意した。安全保障協力の面では、6月に第4回戦略対話が北京で行われ、両国は国防省間のホットラインを正式に設置したほか、ベトナム海軍フリゲート2隻が広東省湛江を訪問し、中国海軍と15回目の共同巡視を実施した。 〉(145~146ページ)

そのうえで「2013年のベトナムの対中外交は2012年に比べ活発だったとの印象を受ける」と記し「ベトナム・中国間協議が活発なのは、中国による越比『離間政策』の表れとも解釈できる」と評価していた。「越比」というのはベトナムとフィリピンだ。

フィリピンが中国とどんな関係だったかといえば、対決姿勢が鮮明だった。先のコラムでも紹介したように、アキノ大統領はことし2月、米ニューヨーク・タイムズとのインタビューで中国をかつてのナチス・ドイツになぞらえて「世界はヒトラーをなだめるために(チェコスロバキアの)ズデーテン地方を(ドイツに)割譲した史実を思い出す必要がある」と訴えた。

つまり「中国に甘い顔をして世界が宥和政策をとっていれば、やがてもっと大きな悲劇を招くぞ」という警告である。

そういう越比の違いを前提にして、概観は「中国は友好的なベトナムと対決姿勢のフィリピンの仲を割くのが狙いではないか」とみていた。それによって南シナ海における中国の存在感を高め、権益の既成事実化を図る戦略ではないか、とみていたのだ。そんな矢先の衝突である。これをどうみるか。

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