高まる「食と農」への関心
見直される「潤い」「防災」など多面的機能[都市農業を守れ!]

農業体験農園では農業のプロの講習と指導を受ける=東京都練馬区の「緑と農の体験塾」で4月11日

「食と農」へ関心が高まり、身近な都市農業に熱い視線が注がれている。しかし、宅地化の荒波にも辛うじて耐えて残ってきた東京など大都市圏の農地は、担い手の高齢化、後継者不足、重い税負担にあえぎ年々減少を続け、このままでは近い将来消滅することが危惧されている。一方で、土と水、緑による憩いと潤い、農とのふれあい、さらに災害時の防災空間などその多面的な機能が見直され、まちづくり政策としても農地保全の必要性が強く認識されるようになってきた。自治体や関係団体の要望を受けて自民党は正式に勉強会を立ち上げ「都市農業・都市農地基本法案」を5月中にも作成し、秋の臨時国会での成立を目指している。都市と農業の共存と共栄に向けた本格的な政策論議が待たれる。

国の農林水産統計によると、全国の耕地(農地)面積が最も多かったのは1961年の608万6000ヘクタールで、その後は減り続け最新の2013年現在では453万7000ヘクタールにまで減少している。高度経済成長期の都市部への急激な人口流入と産業の集中につれて、首都圏をはじめ都市部は大きく変貌していった。そのため、無秩序な開発による市街地の拡大を防止するとともに宅地開発の需要に応えていくため68年に新都市計画法が制定された。

この法律で都市計画区域を設定し、開発を進める市街化区域と、それを抑制する市街化調整区域に分けた。当時の市街化区域123万ヘクタールは「おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域」とされた。その中に農地が27万ヘクタール含まれていた。転用が事前届け出だけでできるため、現在では8万3000ヘクタール余(11年)に減ってしまったが、今に続く都市農地問題の淵源がここにある。

このような都市開発のうねりの一方で、農業地域の保全・形成を目指して69年に農業振興地域整備法が作られ、農業振興地域と農用地区域が設定された。また、市街化区域内でも一定の条件に適応すれば農地を「生産緑地」として存続できる生産緑地法が74年に制定され、開発と保全のせめぎ合いの様相を見せ始めた。

そして80年代後半からのバブル経済。首都、中部、近畿の三大都市圏を中心にオフィスビル用地の需要拡大や投機的な土地取引が活発化して地価が高騰。市街化区域内の農地は宅地用地への転用が強く求められた。「農地を手放さないから地価がいっそう上がるとか言われて、白い目でみられた」(東京都練馬区の農家)と、都市農業への視線が冷たくなったという。

政府は91年、生産緑地法を改正し、三大都市圏の特例市(現在213市区)では、「宅地化する農地」と「保全する農地」に分け、宅地化農地には固定資産税の宅地並み課税と、相続税の納税猶予制度を適用しないことにした。都市農家にとっては「農業を続けるのか、やめるかの選択を迫られた」(同)という政策変更だ。

農林水産省農村振興局の資料によると、11年現在では全国の市街化区域内の農地8万3632ヘクタール。三大都市圏では2万8000ヘクタールで、その半分近くの1万4110ヘクタールが生産緑地で、わずかに多い1万4352ヘクタールが売却可能な宅地化農地を選択している。住宅転用目的の農地売買価格(10アール当たり、11年度)の相場は、東京都内では2億2427万円に上る。市街化調整区域内の1663万円の13倍以上だ。

地方税の固定資産税額(10アール当たり、11年)は、東京都の場合、宅地並み課税の市街化区域内の農地は36万7881円に対し、生産緑地は1406円と桁違いの差がある。国税の相続税は、三大都市圏の生産緑地で営農を継承する場合は納税猶予制度があり、農業投資価格分の納税で済み、東京都の場合は10アール当たり84万円(10年)ほどだ。猶予されている総額(同)は、全国で562億円。そのうち東京国税局分は292億円で相続人1人当たり6425万という。

相続税はあくまでも猶予であり、農業が続けられなくなれば支払わなくてはならず、農地分だけの猶予であり、家屋敷や作業用の建物などは免除されない。都市農家が宅地化農地を持つ理由は、マンションなどの不動産経営で高い固定資産税を支払い、相続税を納めるためにいつでも売却できる土地が必要という事情があるという。

税負担が一般の農地並みに低く抑えられている生産緑地は、(1)農業などの生産活動があり、公共施設用地に適する(2)面積500平方メートル以上(3)農業などが継続可能――などの要件がある。営農に必要な施設以外の開発行為は制限されているが、指定解除後には市区町村に時価での買い取りを申し出ることができるとされている。

だが、指定解除は農業の主たる従事者が死亡するか、指定後30年経過した場合と厳しい条件が付いている。8年後の22年には30年の期限が来る地区が出てくるが、自治体財政が苦しい現状では時価による買い取りは困難なケースが多いとみられ、今後、都市農地の切り売りに拍車がかかることが強く懸念されている。

まちづくり政策として見直される都市農地

本来は「10年以内に市街化を図るべき」農地を現在まで維持してきた大都市近郊の農家はいわば生き残った精鋭であり、「地方の農家さんより農地を守らなくてはならないという意識が強い」(農水省幹部)という。さらにバブル期には〝迷惑施設〟扱いされた都市農地の多面的な機能の重要性が見直される機運が高まっている。

その一つは、食と農への関心の高まりを背景に地産地消による新鮮で美味しく安全・安心な農作物を供給することだ。消費者が身近にたくさんいることから直売所での販売が多いのも都市農業の特長だ。農業体験を通じた住民のふれあいの場になるなどコミュニティー形成にも一役買っている。

緑地空間は都市住民にとって「やすらぎ」や「潤い」「憩い」の心理的な効果のほかに、都市のヒートアイランド現象の緩和や雨水を保ち地下水を蓄える機能がある。11年3月に閣議決定した住生活基本計画で「市街化区域内農地については、市街地内の貴重な緑地資源」と位置付けられた。

さらにこのところ特に注目されているのはオープンスペースとしての災害時の機能だ。東日本大震災(11年3月)の生々しい記憶と近い将来の発生が予想されている首都直下地震への被害想定の発表などから住民の危機意識が高まっている。住宅街の中の農地は、大火災が発生した際の延焼防止、地震時の避難場所や大災害が発生した場合の仮設住宅建設用地にもなる。井戸水による飲料水の供給もできる。

都市農地の災害時の機能については、95年の阪神大震災で仮設住宅用地の不足という事態が生じて注目された。それをきっかけにJAなどを通じて防災協力農地の協定を締結している自治体は50団体(12年度)ある。その半数は東京都内の特別区や多摩地区の市で、首都圏の防災空間の確保への関心の高さを示している。

民主党政権時の10年に策定された「食料・農業・農村基本計画」で「都市農業の機能や効果が十分発揮されるよう、都市住民の理解を促進しつつ、都市農業を守り、持続可能な振興を図る」と明記した。農水省は12年「都市農業の振興に関する検討会」を立ち上げ、同年8月に中間まとめを発表。衰退の一途をたどる都市農業の現状と課題、都市計画、税制を含む総合的な制度改革の必要性などを指摘した。

軌を一にして国土交通省も都市計画制度小委員会で議論を始め同年9月に中間まとめを出した。注目されるのは市街地の開発整備に偏りがちだった国交省サイドがその中で「都市農地の減少」を憂慮し「都市農業を持続可能なものとしていくことは、意義が大きい」としたことだ。「保全すべき農地は一定の永続性をもって確実に保全される必要があり、土地利用や転用の制限など、制度上、営農の継続性を十分に担保することを検討すべきだ」とした。他業種などとの税負担の公平性や一般農地とのバランスを前提にしながらも「都市政策と農業政策の双方から一体的・総合的な検討」をうたったことは画期的だ。

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