気温上昇で食料危機の恐れ
IPCCが7年ぶりに報告書 急がれる適応策[地球温暖化]

IPCC総会で承認された第5次評価報告書について記者会見するラジェンドラ・パチャウリ議長(左)ら=横浜市西区のパシフィコ横浜で3月31日

国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が3月、地球温暖化の影響や被害軽減策(適応策)に関する報告書を7年ぶりに公表した。気温上昇で穀物生産量が減少し、世界の食料危機を招く可能性があると予測。安全保障の問題に発展する恐れも指摘した。温暖化の影響と言えば、北極圏の海氷減少や島しょ国の高潮被害などが指摘されてきたが、このまま温暖化が進めば、日本を含む先進国も影響は免れない。深刻な影響は農業分野などを中心に現れ始めており、被害予測と適応策の実行が急がれる。

IPCCは、異常気象など温暖化による影響に対する懸念の高まりを受け、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が1988年に設立した。現在は195カ国が参加、5~7年ごとに報告書を公表している。今回は「第5次報告書」の一部で、温暖化の影響や適応などをテーマにする第2作業部会が担当。横浜市で3月25~30日に開催された総会で議論され、専門家以外の人にも分かるように主要な科学的知見をまとめた「政策決定者向け要約」が承認された。

IPCCの基本理念は「政策に関係するが、政策を規定しない」。国連機関や各国政府に特定の政策について提言や指示をすることはなく、温暖化の影響、対策に関する科学的知見を提供することに徹する。だが、科学者がまとめた草案を総会で参加政府が全会一致で承認するという手続きを経るため、過去4回の報告書は温暖化対策の国際交渉や各国の政策に影響を与えてきた。第1次報告書(90年)は92年の国際気候変動枠組み条約、第2次報告書(95年)は97年の京都議定書採択を後押しする役割を果たした。

第2作業部会の報告書では、「ここ数十年、温暖化は世界の全ての大陸と海洋で生態系や人間社会に影響を与えている」と指摘。「影響を受けつつある」とした第4次報告書(2007年)よりも強い表現になり、温暖化の悪影響は将来の問題ではなく、既に顕在化していることを明らかにした。

今回の特徴の一つは、分野・地域横断的な主要リスクを初めて取りまとめたことだ。示されたのは、大都市部での洪水被害▽異常気象によるインフラの機能停止▽熱波による死亡や病気――など8項目。農村部だけでなく、人口が集中する都市部ならではの影響も懸念されている。

分野別の分析では、食糧安全保障に関する知見が充実した。穀物の収量は、気温上昇に伴い短期的には増収するという研究結果もあるが、今世紀末から22世紀初頭には大幅な減収と予測する研究が圧倒的に多いという。また、日本を含む温帯や熱帯地域で、その地域の気温が20世紀末より2度高くなると、小麦やコメなどの生産量が減少し、同4度以上の上昇で、世界的な食料危機を招く恐れがあるという。

報告書には「温暖化の進展を抑制できれば、リスクを大幅に低減できる」との建設的な知見も盛り込まれ、温暖化対策は、適応策と温室効果ガス排出削減策を車の両輪として進めていく必要性を強調した。ラジェンドラ・パチャウリIPCC議長は報告書公表後の記者会見で、「過去10年で温暖化への意識が高まった。今回の報告書には(被害を減らす)さまざまな選択肢が示され、今こそ行動に移すときだ」と訴えた。

温暖化の影響は地域によって現れ方が千差万別で、対策を取る上で、地域ごとのきめ細かい影響分析と戦略が欠かせない。このため、英国など一部の国では、定期的に影響分析を実施したり、国家レベルでの適応計画を策定したりしている。

日本の砂浜が8割消失する
最悪ケース環境省研究班

日本では、IPCC総会に先立つ3月17日、環境省の研究班(代表=三村信男・茨城大教授)が温暖化影響の最新予測を公表。洪水や熱中症被害の拡大など、深刻な日本の将来像を示した。

研究班は、災害、食料など5分野の影響を20世紀末との比較で示した。温室効果ガスが増え続けた場合、平均気温は3・5~6・4度、海面は60~63㌢上昇。最悪の場合、砂浜は83~85%消失し、洪水による被害額は20世紀末の約3倍、最大約6800億円に上る。

また、研究班では自治体が適応策を進めるための指針案を作り、必要な情報や、関係者との議論の進め方などを提案している。担当する白井信雄・法政大特任教授(環境工学)は「温暖化影響は、高齢化や産業構造の変化などで弱っている地域に追い討ちをかける。地域が主体となって影響を分析し、地域社会のあり方を見直していくことが重要だ」と話す。

IPCCは4月13日、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出削減策に関する報告書も公表した。産業革命後の気温上昇を2度未満に抑える国際目標を達成するには、排出量を今世紀末までに世界全体でほぼゼロに抑えるか、排出ゼロにした上で温室効果ガスを大気中から取り除く必要があるという、非常に厳しい分析結果だ。

国連気候変動枠組み条約の下では、来年末の第21回締約国会議(COP21)で、京都議定書後の20年以降の温暖化対策の枠組み合意を目指しており、早く準備ができる国は20年以降の目標を来年3月までに条約事務局に提出することになっている。日本は昨年11月、20年までに国内の排出量を05年比3・8%削減する新たな目標を表明したばかりだが、その見直しに加え、交渉けん引が期待される主要国として、20年以降の目標決定も迫られている。

温暖化対策の両輪のもう片方である適応策についても、日本政府は、被害を減らすための国レベルの総合計画を来夏に策定する。いずれの対策も経済へのマイナスの影響が懸念され、費用対効果の検討は欠かせない。

だが、IPCC第2作業部会のクリス・フィールド共同議長は「過去の災害への対応という域を超えて(都市やコミュニティーの)強靭性を高め、温暖化が将来甚大な被害をもたらさないようにするものだ」と適応策の意義を強調。「温室効果ガス削減や適応策への投資は経済を強くする」とも指摘する。これからの温暖化対策を、強い日本、持続可能な地域を作るチャンスにできるか。政府、自治体の対応が問われている。

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