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兵庫県養父市は日本農業とアベノミクスの起爆剤となるか ~シンポジウム「養父市の挑戦:国家戦略特区で日本農業はどう変わるか?」を終えて

文/ 原 英史 株式会社政策工房代表取締役(政府「国家戦略特区WG」委員)

アベノミクスの行方は不透明だ。特に、第三の矢に関して、「いつになったら飛ぶのか」「もう折れてしまったのでは」などと厳しい見方が少なくない。

期待を何とかつなぎとめているのが、昨年の臨時国会で創設された「国家戦略特区」だ。

特区の具体的な場所として、今春、6つの区域が決まった。「東京圏(東京都のうち9区、神奈川県、成田市)」「関西圏(大阪府、兵庫県、京都府)」「沖縄県」「福岡市」「新潟市」「養父市」だ。

「東京圏」「関西圏」は順当なところ。「沖縄県」「福岡市」「新潟市」もまだそんなに違和感はないが、問題は「養父市」だ。

養父市といっても、どこだか分からない読者もいるかもしれないが、兵庫県の北部にある。「日本のマチュビチュ」「天空の城」として最近話題の竹田城がある朝来市と、志賀直哉「城崎にて」で有名な城崎温泉のある豊岡市に挟まれた、人口2.6万人の市だ。

ここが、「中山間地の農業改革拠点」として、わずか6つの特区の一つに選ばれた。

なぜ、北海道などの大農業地域を差し置いて、養父市が選ばれたのか?
たった人口2.6万人の養父市で、「国家戦略」として何ができるのか?

多くの人の頭の中には、クエスチョンマークが渦巻くと思う。

中には、「こういう案件は、たいてい政治決着のはず。何らかの理由で、強力な政治力を使ってプッシュしたのでは」などと勘繰る向きもあるかもしれないが、全く違う。

疑問を解き明かすため、筆者が理事を務めるNPO法人万年野党(会長:田原総一朗)で、4月21日、シンポジウム「養父市の挑戦:国家戦略特区で日本農業はどう変わるか?」を開催した。

〔左から〕コーディネーターの磯山友幸氏、パネリストの岡本重明氏、広瀬栄氏、新浪剛史氏、竹中平蔵氏

パネリストとして、特区、農業改革、養父をめぐる、ど真ん中のプレイヤーたちが並んだ。

●竹中平蔵(慶応大学教授): 国家戦略特区のもともとの提案者であり、政府の産業競争力会議民間議員のほか、今年1月からは国家戦略特区諮問会議民間議員も務める。
●新浪剛史(ローソン代表取締役社長CEO): 竹中教授と同じく産業競争力会議民間議員であり、農業分科会主査として農業改革の司令塔役。
●広瀬栄(養父市長): 言うまでもなく、今回の主役。
●岡本重明(農業生産法人新鮮組代表取締役): 「TPP賛成、改革派農家」の代表格として、TV番組等でもおなじみの愛知県田原市の農業者。今回は地域を超え、養父市の国家戦略特区提案に共同提案者として参画した。

実は、筆者自身、政府の国家戦略特区ワーキンググループの委員を務め、養父市の選定に関わった一人だが、本稿では、筆者以上に"張本人"と言ってよい、上記パネリストたちの言葉を引用しつつ、以下の疑問に答えていきたい。

1)そもそも国家戦略特区とは何なのか?
2)養父市はなぜ国家戦略特区に選ばれたのか?
3)養父市で具体的に何をやるのか?
4)日本農業とアベノミクスの行方にどう関わるのか?

1)そもそも国家戦略特区とは何なのか?

国家戦略特区はもともと、政府の産業競争力会議で成長戦略(アベノミクス第三の矢)を議論する中で、民間議員の竹中教授らが提案したものだった。その原点となる考え方について、シンポジウムでの竹中教授の基調講演から引用してみよう。

竹中教授:私は、2001年から2005年まで4年半、経済財政政策担当をやらせていただきましたが、その間、成長戦略なるものを1回も作っていません。その後から、成長戦略を毎年政府が作るようになり、政府が成長戦略を作るようになって、日本の成長率は見事に下がりました。成長戦略といっても、そんな打ち出の小槌のようなものはないということです。

結局のところ、成長戦略とは、付加価値を見出す企業・民間部門ができるだけ活動しやすいように規制を緩和すること、そして、法人税や公共料金など負担をできるだけ軽くすること。それしか、王道の成長戦略はありません。規制緩和と法人税減税が、成長戦略の胆です。・・・

では、規制改革はうまく行っているのか。そこに日本の非常に悩ましい問題があります。日本には岩盤規制と言われる規制がある。長年こんな規制はおかしいと言われながら、そこに政治勢力があって、ビクともしない。・・・それを何とか突破しなければ成長戦略はできません。そこで、去年の4月に提案したのが、国家戦略特区なのです。

つまり、キーワードは、「岩盤規制の突破」。そのため、地域を限って実験的に突破しようということだ。もっとも、こうしたアイディアは本邦初ではない。かつて小泉内閣で設けられた構造改革特区や、民主党政権で設けられた総合特区もあった。今回の国家戦略特区はどう違うのか。

竹中教授:国家戦略特区の枠組みは、今までのものと根本的に違います。今までの特区は、東京都なら東京都、養父市なら養父市が国に「こういう規制緩和をしてください」とお願いし、国が上から目線で「これはやっていい」「これはやってはダメ」と決めるものでした。今度は、養父市なら養父市の区域会議を作って、そこに国の代表の特区担当大臣、地方の代表の養父市長、民間の代表が入る。区域会議が、さながらミニ独立政府のように、自由にものを決められる仕組みなのです。

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