二宮清純レポート
落合GMに拾われた男
川上憲伸(38歳、中日ドラゴンズ投手)
まだ、野球は終わらない

一度死んだ身からの再契約。川上は「少年の頃のように、もう一度野球を楽しみたい」と語った。諦めや開き直りではなく、素直にそう思ったのだ。プロ17年目、男にはまだやり残したことがある。

開幕起用した落合の思惑

渾身のガッツポーズが飛び出したのは4回表2死一、三塁の場面だ。ナゴヤドームでの開幕ゲーム、中日の先発投手・川上憲伸は広島の石原慶幸を内角低めのシュートで一塁へのファウルフライに打ち取った。

ランナーを背負いながらも粘り強いピッチングで得点を許さない。5回までスコアボードに0を並べた。

スタジアムの一塁側が悲鳴に包まれたのは2対0とリードし、勝利投手の権利を手に入れた6回表だ。無死一塁で4番キラ・カアイフエに外角に甘く入ったシュートを右中間スタンドに運ばれた。川上はこのイニング限りでマウンドを降りた。試合も延長戦の末、2対3で敗れた。

だが、6回2失点なら先発投手としては上々である。本人も「接戦に持ち込めたので自分としては満足している」と淡々としていた。かくして川上のプロ17年目のシーズンは、ほろ苦いなかにも、いくばくかの手応えを得てスタートした。

川上が戦力外通告を受けたのは昨年の9月末だ。球団の西脇紀人編成担当(当時)は「こういうチーム状況だし、世代交代もはからなければならない」と説明した。

無理もない。昨季、川上は右肩痛で出遅れ、5試合に登板し、わずか1勝(1敗)しかできなかった。

トライアウト参加も視野に入れながら、他球団からのオファーを待つ日々。ここで球団に"政変"が起きる。元監督の落合博満がGMに就任し、キャッチャーの谷繁元信をプレーイングマネジャーに推薦したのだ。

落合は川上の力を必要としていた。11月に晴れて再契約。その席で、かつての直属の上司は、驚くべきセリフを口にした。

「オマエ、体調さえ良ければ開幕(投手)も狙えるだろう?」

落合にすれば、チャンスは与えるから、それくらいの覚悟で調整しろ、との叱咤激励だったのだろう。

私には既視感がある。10年前、中日の監督に就任したばかりの落合が開幕投手に指名したのは、ヤクルトからFAで移籍してきたものの、右肩痛のため一軍のマウンドから3年間も遠ざかっていた川崎憲次郎(現ロッテコーチ)だった。

当時、投手コーチだった森繁和(現ヘッドコーチ)は「あれだけは忘れられない」と言い、振り返る。