官々愕々 戦争国家への「11本の矢」

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安倍政権の「列強になるための10本の矢」の輪郭がほぼ明らかになってきた。

政権を取って最初に話題に上ったのが、憲法改正だ。参議院選への影響も考えて結局後回しになったが、自民党の憲法改正草案を見ればその意図は明確だ。

ここには「国防軍保持」と「基本的人権の制限」という2本の矢が込められている。現行憲法では自衛隊は保持しなくても良いが、自民党案では国防軍保持が憲法上の義務となる。しかも、「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため」と書いてあるから、中国に負けない強力な軍隊でなければ「憲法違反!」ということになる。

「基本的人権の制限」は、個人の権利は「公益及び公の秩序」に反しない範囲でしか認めないとすることで、戦争のために人権を制約することを可能とする。戦争批判の言論を抑圧したり、戦時徴用にも使える規定だ。

昨年秋からはまさに「矢継ぎ早」に3本目以降の矢が明らかになった。3本目と4本目が、臨時国会で成立した日本版NSC法と特定秘密保護法だ。閣議でなく、わずか4人の閣僚で戦争開始の決定ができるNSC。戦争に至る過程の情報隠しを許し、マスコミの取材活動を制限する特定秘密保護法。両者とも、戦争に必須の手段だ。

あまり報道されていないが、特定秘密保護法の国会のチェック機能の議論の中で、日本版CIAを創設する構想が出ている。これも戦争には欠かせない5本目の矢である。

海外で戦争するために、集団的自衛権の行使を憲法解釈の変更というウルトラCを用いて容認するのも時間の問題だ。これを6本目と数えよう。

さらに、これに先立って、7本目の矢となる武器輸出3原則の廃止が実現してしまった。これと同時に、日本の軍事産業が実は世界中で武器・武器技術輸出の話を密かに進めていたことが明るみに出て来た。この動きをさらに強化する8本目の矢として、ODAの軍事利用も容認目前のようだ。これらによって、日本は、「戦争できる国」ではなく、「戦争なしでは生きられない国」への道を歩む。

残り2本も議題に挙がるのは時間の問題だ。9本目が徴兵制の導入。前述のとおり、強力な国防軍が憲法の要請だという理由で、若い兵力の確保が課題となる。少子化による人手不足の中では、徴兵制を採るしかない。

最後の課題が10本目の矢、「核武装」である。原発と核燃料サイクルの維持にここまでこだわる理由は、核武装しか考えられない。

そこまで考えていたところで、4月下旬に11本目の矢、「産めよ増やせよ」政策が出て来たから驚いた。富国強兵時代の政策だ。列強となるための国力の基本は人口だということだろう。1億人レベルを維持するために、「女性一人につき2・07人子どもを産む」という数値目標を立てるという。元々は経済界が長期的な労働力確保のために考えた案だが、安倍総理は別の思惑で飛びついてしまった。

しかし、この計画は、他の10本の矢と違って、頓挫するだろう。いくら言い訳してもムダだ。女性を「産む機械」と言って批判を浴びた大臣と同じ。数値目標なら、子育て予算GDPの○○%、1年で待機児童ゼロ、労働時間の2割短縮、有給休暇100%取得など、いくらでも設定できる。出生率上昇はその結果でしかない。

安倍総理の「女性に優しい」という「衣」の下から、戦争のためなら何でも可という「鎧」を見せることになった11本目の矢。そろそろ、国民も気づかなくてはいけないと思うのだが。

『週刊現代』2014年5月10・17日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。

 

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