読書人の雑誌『本』
『変わった世界 変わらない日本』著:野口悠紀雄---日本経済はなぜ停滞から脱却できないか
変わった世界 変わらない日本
著:野口悠紀雄 税抜価格:800円
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「アベノミクスの失速」ということが言われる。しかし、安倍晋三内閣の経済政策には、もともと、公共事業の増額以外には中身がなかった。多くの人は金融緩和が経済動向を好転させたと考えているが、日銀による国債購入額が増えただけで、マネーストックはほとんど増加しなかった。その意味で、金融政策は空回りしていたのである。

また、円安もアベノミクスで生じたものではない。それはユーロ情勢の変化などが国際的な投機資金の流れを変化させたことによって生じた。しかも、円安の効果は、一部の輸出産業の利益を増大させ、株価を上げるにとどまった。実体経済は改善せず、設備投資も増えていない。円安による物価上昇で、実質賃金は低下を続けた。アベノミクスが経済を改善しなかったことを示す何よりの証拠は、GDP成長率が、安倍晋三内閣の登場以来、低下を続けたことだ。

2013年初めの成長率が高かったのは、住宅の駆け込み需要と公共事業の著しい増加があったためである。しかし、14年度には、こうした一時的要因は消滅する。このため、経済成長率は大きく落ち込む可能性が強い。結局のところ、アベノミクスは、日本経済の長期的な趨勢に、何の影響も与えていない。

日本経済が長期の停滞から脱却できないのは、1990年代以降生じた世界経済の大きな構造変化に対応できないでいるからだ。

この変化の本質が何であるかを論じるのが、4月に講談社現代新書で刊行した『変わった世界 変わらない日本』の第一の目的だ。

変化の本質を一言で言えば、市場経済の復活である。それは、分散型情報処理技術の進歩に支えられている。具体的には、大型コンピュータと電話(または専用回線)から、PCとインターネットへの転換だ。

これは、単なる技術面の変化ではなく、経済活動の基本に大きな影響を与えた。中央集権的な経済の優位性が低下し、分権的な経済の優位性が高まった。政府や大企業ではなく、小企業や個人が重要な役割を果たすようになったのである。

経済構造や組織の構造、そして産業構造が変化しないと、この変化には対応できない。社会主義国家とは、中央政府がすべてを決める中央集権的な国家である。したがって、情報処理技術が分散化した世界では、もともと生き延びられない宿命を負っていた。