サッカー
二宮寿朗「ザックのW杯目標設定に見るバランス」

 ザックジャパンが掲げるブラジルW杯の目標って、優勝? それともベスト8?
 筆者が記憶する限り、アルベルト・ザッケローニ監督が公の場で具体的な目標を明言したことはない。ある時はこのように語っていた。
「コンディションさえ整っていれば、世界の強豪と渡り合っていけるという感触は得ている。自分たちのサッカーを高い精度で発揮できれば高い確率でいい結果を得られるのではないか」
 ノルマを設定しないことで、「逃げ」に見てしまう人もいるだろうが、筆者はまったくそうは思わない。本田圭佑や長友佑都たちが「W杯優勝」と大きな目標を口にするなかで、“バランス”をモットーに置くザッケローニは、敢えて目標に幅を持たせているように感じるからだ。

 選手が「優勝」と言っている以上、その設定を“下方修正”することは士気の低下にもなりかねない。だが、1年前のコンフェデレーションズカップでは強豪相手に3連敗した現実もある。一つひとつ現実から経験値を積み上げ、昨年11月にはW杯シード国のベルギーからアウェーで勝利を得る成功体験も得ている。「優勝」の心意気や良しとしながら、現実的に目の前のものをしっかりと見させようとしている。
 確かに「いい結果」の最高地点は優勝になる。そう考えると選手の言葉を受けながら、表立って必要以上に出しゃばろうとしないザッケローニのいい味が出ている設定とも言える。

達成感が出てしまった日韓W杯

 W杯の目標設定――。このことに世間はいつも注目して、サッカーファンの議論の対象になってきた。
 1998年、フランスW杯で岡田武史監督が掲げたのがグループリーグでの「1勝1分け1敗」。最小失点での1敗とし、勝ち点4で突破するというプランであった。初戦で戦う優勝候補のアルゼンチンに敗れたとしても、2戦目のクロアチアに引き分けて、3戦目のジャマイカに勝利できれば決勝トーナメントに進出できる、と想定していたのだ。
 アルゼンチン戦での0-1は想定の範囲内だろうし、気温30度を超すナントでのクロアチア戦は相手の疲弊もあり、スコアレスドローのにおいも漂っていた。しかし、後半32分にスーケルにゴールを決められて0-1で敗れ、グループリーグ敗退が決まった。欧州リーグでプレーする選手を擁するクロアチアと国際経験の少ない日本では、大きな差があったのも事実ではあった。

 ただ、指揮官の読みはスーケルに決められるまでシナリオどおりに進んでいたとも言える。結局、2連敗同士の消化試合となったジャマイカ戦にも敗れて3連敗に終わったが、もし1分け1敗で突破の可能性が残っていれば試合展開もまた違ったものになったかもしれない。岡田の目標設定は実にいい線を突いていたと言えるだろう。

 4年後の2002年日韓W杯では、フィリップ・トルシエ監督がグループリーグ突破を目標に定め、見事クリアした。初戦のベルギー戦を引き分けたものの、ロシア、チュニジア相手に2連勝を飾って突破している。しかし決勝トーナメントでは「ここから先はボーナスステージ」と語るなど、一種の達成感が出てしまっていた。決勝トーナメント1回戦敗退という結果は、その影響があったのかもしれない。