佐藤優の読書ノート---西谷公明著「誰にウクライナが救えるか 友ユーシェンコへの手紙」ほか
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol035 読書ノートより

読書ノート No.107

西谷公明「誰にウクライナが救えるか 友ユーシェンコへの手紙」『世界』(岩波書店)2014年5月号

『世界』5月号 税抜価格:800円

西谷公明氏(国際経済研究所理事、元ロシア・トヨタ社長)は、ウクライナ独立期にキエフの日本大使館に専門調査員として勤務した経験があるウクライナ専門家だ。今般のウクライナ危機をめぐって、ユーシェンコ元同国大統領に宛てた書簡という形態で優れた情勢分析を行っている。

<私には、ウクライナがEUとの連合協定(自由貿易協定)をのぞむ理由が理解できません。利益を得るのがドイツやフランス、ポーランドなどEU諸国であることは明らかです。低迷するEU経済は、人口四六〇〇万の一大新興市場を手中にできるのです、けれども、ウクライナが競争力を有する輸出品には厳しい輸入割当(各国ごとに上限二%の範囲内)が課されます。これではウクライナはEU商品に市場を奪われ、自国の経済を痛めるだけなのです。東部や南部の鉱山業や化学工業は深刻な打撃を受けるでしょう。また、ウクライナ農業は、手厚い補助金に守られたEU産品との競争によって苦境に立たされるにちがいありません。しかも、連合協定を締結したとしても、近い将来EUに加盟できるとは限らないのです。

おそらく、ヤヌコビッチ前大統領にもそのような事情はわかっていたはずです、他方、ヤヌコビッチ氏はロシアとだけ連携したかったわけではなかったでしょう。デフォールトの危機が迫るなかで、貴殿を含む過去の大統領と同じように、ロシアとEUのあいだでバランスを取ろうとしていました。交渉のねらいは、EUとの連合協定そのものに共感したからではなく、ロシアとEUの双方を揺さぶる「金策」にありました。けれどもEUが態度を崩さず、資金援助を拒んだため、ロシアへと向かいました。そして、これに対してロシアは、公的債務の償還に必要な一五〇億ドルの金融支援と、天然ガスの三三%割引を約束してこたえたのでした。・・・(以下略)

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・西谷公明『通貨誕生――ウクライナ独立を賭けた闘い』都市出版、1994年
・山内昌之、中井和夫、広岡正久、 佐久間邦夫 北川誠一『分裂するソ連――なぜ民族の反乱が起こったか』NHKブックス、1990年
・Igri Klekh sost., Neizvestnaya Ukraina. Antologiya., Moskva: Emergency Exit, 2005(イーゴリ・クレフ編集『知られざるウクライナ 論文集』モスクワ、イマージェンシー・エグジット社、2005年)
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