漁業生産組合「浜人」十三浜漁師 阿部勝太さん【後半】「漁業でいいものが当たり前に売れる仕組みをつくる」
『東北発10人の新リーダー~復興にかける志』より抜粋

『東北発10人の新リーダー復興にかける志』第2章より抜粋

新しい販路開拓への挑戦

阿部の挑戦が始まった。毎日が営業の日々である。それまで自分の商品と他社のものをしっかりと比べたこともなく、自社商品の強みも分からなかった。

「私が育った環境では、漁師たちは実際に市場の調査を行ったわけでもないのに、『ウチが一番です』と言っていました。銀座に行って飛び込み営業でバイヤーを捕まえて、同じように言ってしまうんですよね。案の定全く相手にしてもらえませんでした。折り返しの電話では、『いやー、すみません。ちょっと取引は厳しいですね、じゃ』と取り合ってもらえない。その時に、初めて市場という概念を身をもって学んだんですよね。本当に全然売れないんですよ。想いと勢いだけでは絶対に売れないことが初めて理解できました」

阿部は勉強をするしかないと考えた。方法は足を使って多様な人間に聞いて回るという、彼が最も得意とするやり方だ。

「前回飛び回ったのは、漁業の方向性を決めるためでしたが、今回はどうやって商品を売るのかを聞きに歩きました。競合となる二次産業の加工業者にも会いに行きましたよ。漁師が物を直接売るということは、本来は二次産業者からすれば、何やってんだという話になりますよね。でも、私みたいな若造が、素直に情熱をぶつけることで共感してもらい、どんどんやり方を教えてくれたり、人を紹介してくれたりしてくれました」

阿部は足の続く限り、どこにでも行った。そして、市場や売り方の勉強に加えて、ワカメそのものの勉強もした。十三浜のワカメは製品としてどこが良いのか、ワカメの市場でどうすれば他の産地のワカメに勝てるのかを強く意識するようになった。

「本来当たり前のことかもしれませんが、周りの漁師たちはそんなこと考えもしませんでした。私にとっては画期的なことだったと思います。今まで根拠のない勘で言っていたことを、しっかり市場調査してから話すようになりました」

阿部の営業が変わった瞬間だった。そして足を使って繰り返し、繰り返し、全力で営業を続けた結果、なんと初年度で全部在庫を売り切ったのだった。

彼の持つ強みの一つが、誰からでも、何からでも学ぼうとする謙虚で貪欲な姿勢である。その姿勢が共感を生み出し、他者を巻き込み、そしてそのプロセスの中で自己を高める好循環を生み出しているのだ。

「東北発 10人の新リーダー~復興にかける志」
震災から3年。被災地の東北では今、真の復興と新たな地域創造を目指して、多くの人が立ち上がり、さまざまな活動を実践している。中でも注目されるのは、次代を担う若い人材が続々と誕生していることだ。
本書では、主に20代から30代の若手経済人ら10人を紹介している。その活動や職業は実に多彩だ。
最先端の技術を使ってイチゴのブランド化に成功した例や、海産物の新たな流通モデルの構築に取り組む20代の漁業後継者、被災地で美容室を経営し雇用の場の創出にかける男性、地域の子どもたちに学びの場を提供する女性とその仲間たち…。
登場人物に共通するのは、単に従来の形の東北に戻すのでなく、新しい東北を作っていこうという「熱い志(こころざし)」である。若い彼ら、彼女らのバイタリティーに驚くばかりだ。
5人の著者は、ビジネスリーダーの育成に取り組むグロービス経営大学院の教官や学生。「新しい東北を作ることは今後の日本の在り方の先を行くこと。継続しながら、新しい力を」と代表の田久保善彦さん(経営研究科研究科長)。10人の若きリーダーたちの活動を通して、東北の可能性を探る。読んでいるうちに元気になる一冊。