常見陽平「若者に、『頑張れ』と言いっぱなしをする社会は、そろそろやめにしよう」【第1回】

『「できる人」という幻想 4つの強迫観念を乗り越える』より

なお、人事担当になった頃に気づいたのは、入社の半年前に行う「内定式」も、その前に開かれる「内々定者懇親会」も、すでに入社式のようなものだということだ。ここでも、社長や人事部長など、経営トップ層による訓示が行われる。プレ入社式ではないかとすら感じる。私自身は会社に拘束されるのが嫌で、新卒時代は内定式をサボった。いま思うと、これがサラリーマン時代、会社で浮き続けた原因の1つだった。

内定式に関する報道は少ない。したがって、ここでは入社式のみを研究対象とする。それは、社会人になる心構えを説く場であるとともに、社会学や経営学で言う「オリエンテーション」および「組織的社会化」の起点となる儀式とも言える。

なぜ入社式を研究するのか

この章では、入社式の平成史を通して、日本の若手社員に期待される能力を分析する。

前述したように、入社式というのは奇妙な舞台である。数年後に退任する可能性が高い経営者が、白無垢の新入社員に語りかける。ただ、経営者は新入社員だけに語りかけているわけではない。他の従業員、株主、顧客、社会といった、ステークホルダーすべてに語りかけているのである。入社式の訓示は社内報などで共有されるだけでなく、企業によってはホームページや株主向けレポートで発信される。大企業ならば、メディアで取り上げられる可能性だってある。つまり入社式というのは、経営者が、今後の企業方針や従業員のあるべき姿を、若手社員だけでなく、多くの人に投げかける場なのである。

入社式の訓示とは、言ってみれば、理想のビジネスパーソン像を会社と社会に問いかける行為なのである。平成の日本人は、どのようなビジネスパーソンを目指せと言われてきたか。入社式は、そのことを読み解くためのヒントになると考えた。

ここで分析する対象は、日本経済新聞の平成元(1989)年から平成25(2013)年までの入社式を報じた朝刊である。毎年、新年度の平日初日明けの同紙は、大手企業を中心に数社の入社式を紹介する。

もちろん、他の新聞もフォローするべきだし、可能であれば昭和(1989年以前)との比較を行うべきであろう。また、日本経済新聞に紹介される入社式という時点で、バイアスがかかったものであるとも言える。中堅・中小企業における社長訓示は、ほとんど掲載されていないことも特徴だ。発言も一部を切り取ったものである。

とはいえ、日本経済新聞でどの企業が取り上げられ、社長がどんなことを語ったかを分析することは、平成という時代における日本人の働き方、「できる人」という幻想を読み解く上で有益だと考える。断定的な論拠にはなり得ないが、読み解くヒントくらいにはなる。時代の変化を感じることもできそうだ。

本章では、時系列に、日本経済新聞社が報じる入社式の記事を紹介し、考察することにしよう。なお、年によっては、各社の入社式を取材するのではなく、入社式訓示のキーワードをまとめた年などもある。平成3年などがそうだ。あらかじめお含みおきいただきたい。社名や社長名も当時のものである。

それでは、平成元年から平成25年まで四半世紀の入社式を、時代状況とともにダイジェストで振り返ってみたい。

『「できる人」という幻想』より抜粋

常見陽平(つねみ・ようへい)
著述家、杏林大学・千葉商科大学・武蔵野美術大学非常勤講師、「クオリティ・オブ・ライフ」フェロー、HR総合調査研究所客員研究員。1974年宮城県生まれ。97年一橋大学卒業、リクルート入社。同社では「とらばーゆ」編集部などに在籍。2005年玩具メーカーに転じ、09年クオリティ・オブ・ライフに参加。14年春一橋大学大学院社会学研究科修士課程を修了。講演・執筆の専門分野は就活、転職、キャリア論、若者論、ノマドワーク、仕事術など。著書に『「できる人」という幻想』『「就社志向」の研究』『普通に働け』『「意識高い系」という病』『僕たちはガンダムのジムである』など。ツイッターアカウント:@yoheitsunemi  公式サイト:http://www.yo-hey.com

著者: 常見陽平
「できる人」という幻想 4つの強迫観念を乗り越える
(NHK出版、税込み799円)
即戦力、グローバル人材、コミュ力、起業・・・いったい、日本はいつまで「できる人」という幻想を追い求めるつもりなのか?

amazonこちらをご覧ください。

楽天ブックスこちらをご覧ください。