常見陽平「若者に、『頑張れ』と言いっぱなしをする社会は、そろそろやめにしよう」【第1回】
『「できる人」という幻想 4つの強迫観念を乗り越える』より

はじめに

この本は、「できる人」という幻想について検証する本である。「できる人」にならなければならないという強迫観念が、日本の若者を苦しめている。この「若者強迫社会」の実像に迫りたい。

「頑張れ」

この言葉に、疲れていないだろうか。

私たちは、幼い頃から「頑張れ」という言葉と一緒に生きている。幼稚園のお遊戯で「頑張れ」と言われ、小学校の少年サッカーや少年野球でも「頑張れ」と言われ、中学や高校では受験勉強を、せっかく入った大学では就活を「頑張れ」と言われ、社会人になると営業目標達成に向けて「頑張れ」と言われる。仕事や学業だけではない。婚活まで「頑張れ」と言われる。いや、親の介護など「頑張らざるをえない」ことだってある。「頑張るのに疲れた」なんて言うと、いかにも「負け組」のような、やる気がなく「ゆるい」者のように思われてしまうかもしれない。

だが、日本人が思わず口にしてしまう「頑張れ」という言葉は、置かれている環境によっては「暴力」になってしまう。

2011年3月11日は、東日本大震災と福島第一原発事故が起こった、日本人にとっての集合的記憶とも言える歴史に残る日だ。その直後にも「頑張ろう」というメッセージが、世の中に満ちていた。気持ちは、わかる。ただ、庶民にとっては不可抗力と言える大地震、大津波、原発事故のあとに、「頑張ろう」はないのではないか。どう「頑張れ」というのか。

日本人は「頑張れ」が大好きだ。1936年のベルリンオリンピックでは、女子200メートル平泳ぎに出場した前畑秀子に対して、NHKのアナウンサーが「前畑頑張れ」を20回以上絶叫したという。余談だが、この放送を聞いた人の中には、ショック死する人がいたほどだった。

環境や本人の能力を度外視した「頑張れ」は暴力でしかない。そして、右も左もわからない若者に対して「頑張れ」を連呼し、強迫しているのがいまの日本社会なのだ。

メディアにおいては、この国の行く末についていつも悲観論が発信される。先行きは不透明だ。グローバル競争の時代でもある。ITが仕事を奪う可能性だってある。

だが、このような環境や人間の実力を大きく超えて、「できる人になれ」「頑張れ」と煽あおっているのが、現代の日本なのだ。特に、右も左もわからない若者に、「できる人になれ」と連呼し、強迫する。気がつけば、若者に求める力は「神様スペック」と揶や揄ゆされるレベルにまでなっていないか。

「できる人」という幻想 4つの強迫観念を乗り越える
著者=常見陽平
NHK出版 / 定価799円(税込み)

◎内容紹介◎

コミュニケーション能力を磨き、即戦力としてグローバルに活躍し、会社が頼りないなら起業しろ---。いったい、日本はいつまで「できる人」という幻想を追い求めるつもりなのか? 雇用や労働の常識を問い直し、日本のビジネスパーソンを強迫し続ける幻想の正体に迫る。若者よ、「できる人」を目指すな! 社会よ、若者の可能性にかけるな!

⇒本を購入する AMAZONはこちら / 楽天ブックスはこちら