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伊集院静『許す力』に学ぶ 有名人がいまだから明かす「私が許せなかった人へ」【第5回】倉田真由美(漫画家)から束縛する元彼氏へ「あなたのおかげでだめんずを卒業できたわ」

倉田真由美(漫画家)から束縛する元彼氏へ
あなたのおかげでだめんずを卒業できたわ

ベストセラー『大人の流儀』シリーズの第4弾『許す力』。発売3週間で早くも17万部に

「許せない人」と言われて思い出すのは、20代前半に付き合っていた20歳も年上の男です。彼は執着心、独占欲が強い、いわゆる束縛男でした。

たとえば、男性との電話は、仕事であっても一切ダメ。当時は携帯電話がなかったので、毎晩9時10時になると家に確認の電話をかけてくるんです。それで、私が出ないと後で「何をしていたんだ!他の男と会っていたんだろ」と怒られました。直接、暴力を振るわれることはありませんでしたが、彼が不機嫌にならないよう、彼のタイプの女になろうと努めていました。

私が初めて恋愛したのは20代と少し奥手だったので、この彼は2人目の男です。当時は自分自身の好みを知りませんでしたから、相手の思うがまま。よく言うんですけど、「若さはバカさ」。若い女性は世間を知らないし、何もわかっていない。私自身がそうで、彼のことを「こんなに愛してくれるなんて」と満足して受け止めていました。ただ、「俺は若い女がいい。もうお前より年増の女なんて想像できない」というセリフには引きましたね。今思い出しても虫酸が走ります。

1年も経つころにはさすがに束縛にウンザリしてきて、別れ話を切り出しました。すると彼は、「別れるなら慰謝料20万円を口座に振り込め」「今までお前に使ったカネを返せ」という内容のFAXを毎日大量に送りつけてきたんです。無視していると、私の親まで電話で脅すようになりました。「お前の娘は泥棒だ。慰謝料を払わない」とまで言ったそうです。そもそも、私が何かひどいことをしたわけでもだましたわけでもありません。むしろ、おカネを貸していたくらいですよ。

しかも、当時は漫画家デビューして間もないころで、収入は月3万円ほど。アルバイト代を足しても月収10万円を超えるかどうかというカツカツの暮らしでした。だから、20万円なんて大金は払えません。結局、親に借金して関係を清算しました。しばらくの間、FAXの音がトラウマになりました。

でも、この束縛男と付き合ったことが、『だめんず・うぉ〜か〜』で実を結んだんです。思い出したくもない過去だったけれど、正面から向き合いました。いわば心の傷を昇華しようとして描いたんです。結果、あの漫画が売れたおかげで、「だめんず」漫画家・倉田真由美が生まれた。今では笑い話にできるようになりました。

男運も、束縛男から逃げ切って以降、上がっていきました。実は、私自身は「だめんず」にはそれほど遭遇していないつもりなんです。あそこまでひどい男はいなかったので、相当寛容になったのかもしれません。1回目の結婚こそ離婚してシングルマザーという結果に終わったけれど、それも相手が「だめんず」だったというより、彼と相性が悪かっただけ。

振り返ると、あの束縛男と付き合わなかったら、今の私も、幸せもなかった。それに免じて、彼も許してあげましょう。

「週刊現代」2014年4月12・19日合併号より