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有名人がいまだから明かす「私が許せなかった人へ」【第5回】佐藤愛子(作家)からカネを返さない友人へ「厳しく怒ることが許すことだと気付いた」
ベストセラー伊集院静『許す力』に学ぶ

佐藤愛子(作家)からカネを返さない友人へ
厳しく怒ることが許すことだと気付いた

ベストセラー『大人の流儀』シリーズの第4弾『許す力』。発売3週間で早くも17万部に

おカネを貸しても返してくれない友人がいましてね。その人は、私が借金でドン底のときは寄りつきもしないで、私の懐具合がよくなったら、どこで聞きつけたのか「貸してくれ」と訪ねて来るんです。

それまで借金で首が回らない状態でした。2度目の結婚相手の会社が'67年に倒産して、2億円もの借金が私にのしかかってきた。家に毎日借金取りがきてね。猛烈に働きました。ちょうど高度経済成長の時期だったから、いろんな企業が税金対策のためにやたらと講演会を催していたんです。

小説が売れ始めていた私にもたくさん講演の依頼が来ました。すべて受けて、毎日のように地方講演。講演前まで原稿を書き、その後にテレビ出演が入っていれば、控え室で続きを書き、東京に戻ったらまた朝4時まで原稿、という生活を、50代半ばまで続けました。

それでようやく借金返済が落ち着いたころ、その友人が「カネを貸して」と久しぶりにやってきました。以前から仕方ない人だとわかっていましたが、貸してしまった。それで、やっぱり返してくれない。死ぬ思いで稼いだおカネを貸したのに踏み倒されて、私はカンカンに怒って、罵倒の限りを尽くしました。でも、頼まれるとまた貸してしまう。怒りながら、おカネを相手に投げつけているような状態でしたね。なぜ貸したのか、自分でもわからないんです。理屈じゃないんですね。弱い人間、苦しんでいる人間が助けを求めてくると、助けてやりたいという気持ちが働くんです。

その友人からは、いまだにおカネは返してもらっていないけれど、怒ってエネルギーを発散したから、憎んではいません。感情というのは、発散すれば解消される。発散しないから、恨みつらみや「許せない」といった思いになっていく。世の中理不尽なことだらけですから、そんなこと言っても、きりがありませんよ。目の前の現実を、もうどうすることもできない天災や運命のようなものだと捉えて諦めるしかないんです。

そもそも私は、「許せない」という感情がわかりません。そこまで他人を断罪しても良いことはない。でも、ケンカはすぐします。言いたいことを言うし、罵倒もする。自分の気持ちに正直に生きてきた。親からは「わがままでどうしようもない」と言われていましたけど(笑)。

だから「自分が正しい」と思ったことはないし、相手に認めてくれとも思いません。ただ、腹が立つから怒らせてもらう。犬が吠えるのと同じ。それで発散したら、怒りは解消する。

厳しく怒ること。それが私の「許す力」なのかもしれません。

「週刊現代」2014年4月12・19日合併号より