『スエロは洞窟で暮らすことにした』 お金がなくても豊かに生きられる!?

レビュー:峰尾 健一

米国ユタ州の砂漠の町モアブに、10年以上まったくお金をつかわずに暮らしている男がいる。スエロと名乗る彼は、50歳をすぎた現在でも、月の半分以上は野草やごみ箱から拾った物を食べ、人里はなれた洞窟に寝るという穴居生活を送っている。本書は、スエロの旧友でもあるノンフィクションライターの著者が、リーマンショックを機に、資本主義の煩わしさとは無縁の世界に生きる彼の元を訪れ、密着取材をしたことで生まれた。

10年以上もお金をつかわない生活なんて聞いたことない! と、本書を読み始めたのだが、実はこの手の強者は世界を探せば他にもいるようだ。調べてみると、本まで出した人もいる。はい、レビュー断念。となるところだが、読み進めていくとどうやら スエロは他の無銭者とはひと味違う。著者をもって「フリーランスの哲学者」といわしめる彼の哲学は、資本主義の世に生きる我々にとって、はっとさせられるような気づきをもたらしてくれるのだ。

世の中には貧困者に手を差しのべるシステムもあるが、彼は基本的に自発的な贈与でなければ受けとらない。例えば、公的福祉サービスや民間のホームレス向けシェルターなどの慈善事業は利用しない。国民が法的義務から仕方なく払っている、税金でまかなわれるものは自発的贈与ではないからだ。安易に物乞いをすることもない。与えてくれる人が現れなければ、自分で食料を調達し、洞窟やテントで寝る。もちろん善意で寝床を提供して くれたり食事をふるまってくれたりする 人々の、無償の厚意ならばありがたく受けとる。貧しくとも依存のイメージとはかけ離れており、たくましく自立しているのがわかる。

さらに彼は見返りを求めない贈与の達人でもある。日々ボランティアや農作業の手伝いなどに精を出しているが、対価はけっして受けとらない。自分のもっているものを見返りを気にせず与え、他人から無償で与えられるものを負い目を感ずることなく受けとるのが彼の哲学なのだ。

金銭を放棄することで、逆に人との交流が深くなるのは興味深い。スエロは色々な集まりに積極的にでかけ、人々と互いに善意の贈与を通してつながっている。