『偉人は死ぬのも楽じゃない』

レビュー:峰尾 健一

本書には、カエサル、コロンブス、マリー・アントワネット、アインシュタインといった、歴史にその名を刻む19人の偉人たちが登場する。しかし本書がスポットを当てているのは、その武勇でも、才能でも、豪勢な暮らしでも、壮絶な運命でもない。書かれているのは、偉人たちが具体的にどのように死んだのか、という死に際の物語だ。それが1人物につき1章で、大体10ページくらいでまとまっているので、どこからでも手軽に読み始められる。これは、スキマ時間に読むには最適!

と、はりきって言ってはみたものの、困ったことに内容はそんなに軽くない。ギロチンで飛び散った血で道が濡れてすべる、体を切り開いて大量の血や種々の液体をかき出す、遺体の頭蓋骨から脳みそだけを取り出してスライスする・・・。など、とにかく血なまぐさい話がゴロゴロ出てくるのだ。筆者自身、まえがきで、"血なまぐさい話が苦手なら、この本を読んではいけない"と、警告を発している。自分は平気という人も、せめてご飯を食べる前に読むのはやめておこう。

しかし、ともすれば読者を選ぶようなその刺激は、本書の魅力でもある。カッコいいエピソードばかり取り上げて、読む者に勇気や感動を与えにくるようなありがちな偉人伝を読むよりも、血と、汗と、涙と、その他諸々の濁った液体、であふれた偉人たちの死に際に、ハラハラゾクゾクさせられる方が人間味を感じられておもしろい。

偉人たちの最期を、血なまぐさいものにすることに大いに貢献したのが、死に際に施されたメチャクチャな治療だ。そのひどさには唖然とさせられる。

なかでも、ベートーヴェンの受けた仕打ちはかなりヤバい。彼は死の少し前から、本来は体外に排出されるべき液体が滞留し、腫れを起こす、「水腫」という病気を腹にかかえていた。そんな彼を救うために、医者たちは腹に穴を開け、管を差し込み、膿のような濁った液体を吸い出していく。ざっと10リットル近くの液体がとれたらしい。誤解の無いよう言っておくが、麻酔や鎮痛剤など一切なく、意識のある状態での出来事である。むしろ激痛で、意識など無いに等しかったかもしれない。後始末をするにも、傷を縫う習慣がまだないので、穴には布きれが詰め込まるだけ。さらに、その後も同じ治療が3回繰り返され、毎回同じ穴と管が使われた。案の定、炎症が起きて、結局腹の膨れは液体を吸い出す前より大きくなったという。読んでいるだけで、お腹が痛くなってきた。

いっそおとなしく逝かせてあげたらどうかと思うのだが、医者たちは諦めない。すぐに次の作戦を思いつく。彼を蒸し風呂に入れて、汗をかかせて液体を押し出そうというのだ。タイムマシンがあったら、今すぐ止めに行きたい。そんな願いもむなしく、蒸し風呂で蒸気を大量に吸い込んだ大音楽家は、腹をパンパンに膨らませ、そのまま息を引き取った。