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VOL.1「ウクライナ問題が浮き彫りにした「新冷戦」という構造」はこちら
VOL.2「アメリカの力が衰え、戦後の世界秩序が液状化しはじめた」はこちら
VOL.3「中国の攻勢を前にアジア版NATOはあり得るのか」はこちら

●TPPは対中戦略のプラットフォーム

長谷川: アジア・太平洋という意味では、TPP(Trans Pacific Partnership:環太平洋経済連携協定)も大きなプラットフォームだと思いますね。

長島: 私もまったく同感です。TPPをめぐっては、保守派の間でもいろいろ議論は分かれるのですが、かつて日本がTPPについて未だ関心も示していなかったときに、シンガポールを中心にしてブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヵ国間で細々とTPPがはじまりました。

私はそのときにシンガポールの外交官と話をしたんですが、彼が「このTPPというのは対中戦略なんだ。対中戦略として大事なんだ」と言っていた。最初は私もピンとこなかったんだけれども、そこにアメリカが入るようになって、実感としてわかってきたところがあります。

それは別に中国を封じ込めたり排除したりするということじゃなくて、「このルールを共有するならあなたも入れますよ」と。別に閉ざされた経済ブロックを作るわけではないんです。しかしその代わり、このアジア・太平洋地域で高い次元の経済連携を実現するためには、貿易や投資、知的財産権も含めて最低限これだけのルールをすべてにわたって重んじてやってくださいよということであって、域内の自由で開かれた繁栄のシステムを構築して行く上では、そういう牽制というのは絶対必要なんです。

長谷川: そうですね。安倍政権は自由と民主主義と人権と法の支配の共有をいい、さらに私は市場経済もつけ加えたいと思い、ですが、これを共有できれば安定できますよ、ということですね。それでアメリカについてぜひ聞きたいと思うんですけど、アメリカのオバマ政権は中国に対してどういうふうに思っているんでしょうか? それこそ「appeasement policy(宥和政策)」ではないかとも言われていますが。

長島: アメリカの政権というのは、常に揺れ動いてきたんですね。思い出していただきたいのは、ブッシュ(子)政権ができたときのことです。選挙戦キャンペーンも含めて前クリントン政権が非常に対中宥和的だったことを批判してブッシュ(子)政権が誕生したわけです。

そこで最初にEP-3米偵察機の事件がありました。2001年春に米中両軍の軍用機が衝突して海南島に墜落した事件。あの事件があってものすごく米中関係が緊張したわけです。クリントン大統領の時代に中国を「戦略的パートナー」と呼んでいたのを、ブッシュ(子)は「戦略的競争相手」という言い方をしていて、明らかに「ソ連崩壊後の戦略的な競争相手は中国だ」ということを明言したのがブッシュ(子)政権でした。

ところがその年の9月11日に9.11同時多発テロが起こって、中国とも関係を良くしていかなければいけなくなって、そこからブッシュ政権の対中政策はガラッと宥和に振れるんですね。オバマ政権はそれを引き継いだまま今日に至っていて、これも中国の出方次第で、オバマ政権はまだ3年ありますが、オバマ政権が交代すれば、次のヒラリーさんにせよ共和党政権に交代するにせよ、私は中国に対してかなり厳しい政権ができると読んでいます。

「新型の大国関係」を認めてしまったライス発言

長島: では今のオバマ政権をどう考えるべきか。象徴的なのが、2013年の11月20日に新しく安全保障担当の大統領補佐官に就任したスーザン・ライス女史が行ったジョージタウンでのスピーチです。これは外交安全保障スピーチというもので、歴代の補佐官、たとえばヘンリー・キッシンジャーもズビグニュー・ブレジンスキーもやった、政権の外交・安全保障戦略を明らかにするもので、米国内のみならず世界が注目する重要なスピーチなんです。そのジョージタウン講演でライス補佐官は「新型の大国関係をオペレーショナライズする」、それを機能するようにしたいと。私はこれを見てびっくり仰天しました。

「新型の大国関係」というのは、昨年の6月の米西海岸サニーランヅで行われた米中首脳会談の際に、習近平主席が申し込んだ提案なのです。その意味はこうです。

「これまでは覇権国が交代するときには必ず戦争になった、16世紀のポルトガルとスペイン、17世紀のイギリスとオランダ、ナポレオン戦争も、二次にわたる世界大戦も、そういう覇権戦争や覇権交代にともなう国際秩序の動揺という歴史を見据えて、米中間の新しい大国関係はお互いの立場を尊重しながら平和裏に世界を仕切って行きましょう」という提案なのです。

つまり、その真意は、米国に代わって中国が覇権を握る上で、その移行を円滑にしましょう、激しい戦争で主役が入れ替わるのではなく、お互いの力を認め合って対等でやっていきましょう、というのが「新型の大国関係」に込められた中国指導部の強烈な自負だったのです。

これに対して、アメリカは当初、中国のことを「great power」とは呼んでいなかった。単にデカいだけという意味を込めて「major power」と呼んで、「あんたたちはそんな粗暴な振る舞いで国際ルールも守らないような行動をしているんだから『great』とは呼べないよ」とあしらっていました。けれども、今度のスーザン・ライスのスピーチではハッキリと中国側の意向を受け容れる形で「新型の大国関係を機能させるようにしましょう」という言い方をした。

それは一つにはアメリカの弱さの表れですし、もう一つは中国の力を認めているということが背景にあります。2007年頃にキーティング米太平洋軍司令官が中国海軍幹部に言われたとされる、「太平洋を二分して東側はアメリカが、西側は中国が管理する」という太平洋二分案、まさにそれを想起させるような対等の大国関係を機能させようというのですから、あいた口がふさがりません。

アメリカとの共同統治を狙う中国

長島: 11月20日にライス補佐官がその驚くべきメッセージを全世界に向けて発した直後に起こったのが、例の防空識別圏(Air Defense Identification Zone:ADIZ)の事件です。つまり、中国はそういう動きをしっかり見ていて、「これだけやってもおそらく新しい大国関係だからあんまり強硬なことは言ってこないだろう」と読んでいたわけです。実際、ジョー・バイデン副大統領だってジョン・ケリー国務長官だってチャック・ヘーゲル国防長官だって、表向きは抗議したけれども、しかし日本が期待したようにそれを中国側に撤回させるところまでには至っていない。

そして年明け早々、中国が海南島で自国の漁業法を適用すると言って、ベトナムの漁船を拿捕しています。そういう国際ルールからいうと無茶苦茶なやり方を中国は少しずつやっている。さっきフィリピンの話もされていましたが、それよりはもう少しソフトではあっても国際秩序への挑戦をしてきているわけです。・・・・・・この続きは、現代ビジネスブレイブイノベーションマガジンvol074(2014年4月23日配信)に収録しています。

長島昭久(ながしま・あきひさ)---1962年神奈川県横浜市出身。衆議院議員。民主党副幹事長。慶應義塾大学大学院修了、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)修了。前防衛副大臣、元総理大臣補佐官(外交及び安全保障担当)。衆議院安全保障委員会筆頭理事。
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