無能な研究者のずさんな仕事・・・なのか?
除草剤アトラジン問題のゆくえ

レビュー:青木 薫

除草剤アトラジンをめぐる長年の論争がひとつの山場を迎えているようで、『ニューヨーカー』の2月10日号にホットなレポートが載っていました。アトラジンは日本でも使われている除草剤でもあり、今後の成り行きが注目されます。

が、今回の記事はアトラジンの性質というよりもむしろ、医薬品や農薬などの安全性を調べている科学者が、その製品を製造販売している企業にとって好ましくないデータを出してしまったらどうなるのか---しかもそこに巨額の金が絡んでいるときには---という、われわれとして知っておくべき残念な事実に関するものでした。

除草剤アトラジンの問題は、両生類(とくにカエル)の内分泌学を専門とする、タイロン・ヘイズという研究者を抜きにしては語れないようで、『ニューヨーカー』の記事もヘイズを軸として展開されていました。

ヘイズは、サウスカロライナ州出身のアフリカ系アメリカ人で、彼が生まれ育った地域では、人口の六割以上が高校を終えていないのだそうです(高校卒業率が40%を切る、ということですね。ちなみに日本は高校卒業率95%、アメリカ全体では78%程度です)。しかしヘイズは成績優秀だったため、奨学金をもらって別の地域の高校に進むことができました。彼が両生類に興味を持つようになったのは、この頃だったそうです。オタマジャクシがカエルになるという劇的な変化が、彼には魅力的だったといいます。ヘイズは家の中でカエルやオタマジャクシをわさわさと飼いはじめ、家族からは「天才と変人は紙一重」などと言われていたそうです。

ヘイズは奨学金を受けてハーバード大学に進みますが、大学ではひどいカルチャーショックに苦しめられました。ハーバードにはアフリカ系アメリカ人の学生もいるのですが、みんな裕福な家の出だったそうです。そんなキャンパスに居場所のなさを感じて大学を辞めることも考えたヘイズでしたが、幸いにも、韓国系アメリカ人の彼女ができたり(同じ生物学専攻で、二人は卒業と同時に結婚します)、「うちの研究室に来ないか」と誘ってくれる教授がいたりして救われます。