読書人の雑誌『本』
『和解という知恵』著・廣田尚久---「和解」弁護士、「保険金不払い」損保と闘う
和解という知恵』 著:廣田尚久
定価:760円(税抜)
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人間関係がうまくゆかなくなって落ち込んでしまうことは、いつの時代でも、誰でもあることなのでしょう。家庭でも、学校でも、職場でも、ささいな言葉に傷つき、自分の殻に閉じこもってしまう人は多いのではないでしょうか。とりわけ近年は、遺産分割や離婚等を機に、これまでうまくいっていた親族との人間関係がぎくしゃくし、深く悩んでいる人はかなり多いと思います。

そうしたトラブルが起こった時、みなさんならどう対処しますか。解決策はいろいろありますが、私が推奨するのは断然「和解」です。

この度、講談社現代新書から、『和解という知恵』という本を出していただくことになりました。これは、弁護士としての四六年の経験に基づき、紛争を避けるための「和解」のコツについて論じた本です。「和解」といえば、「妥協」「足して二で割る」というようないい加減なもの、と思われるかもしれません。しかし本書では「和解のメカニズム」を解明するとともに、和解の方法について、具体例をもとにまとめました。宮澤賢治が「雨ニモマケズ」の中で「ヤメロ」と言った「ソショウ」は、どうすればやめられるのか――「仲直り」されたい方は、ぜひご一読いただければと思います。

ところで、『和解という知恵』では、全編を通して「和解」を推奨する内容になっていますので、訴訟を推奨するようなことは書いておりません。白黒をハッキリさせなければならない紛争は訴訟がよいという趣旨のことは書きましたが、その実例をあげて説明することはしませんでした。そのような実例を書けば、「和解」で通しているこの本の筋が曲がってしまうと思ったからです。

しかし、本書に書かなかった、白黒をハッキリさせなければならない紛争の実例は、どこかに書いておいた方がよいと思っていましたので、この機会を生かさせていただくことにします。

高田さんは、奥さんと一緒にハワイのホノルルで行われたゴルフ大会に出場した後に、借りていたレンタカーでレストランに行きました。食事が終わって車に戻ってみると、車上荒しに遭っていて、車内の品物がごっそり盗まれていました。被害は、高田さんのものが携帯電話、カーナビ、ゴルフシューズ、カメラ、バッグ、土産品の人形、Tシャツなど約二〇万円で、奥さんのものがゴルフ道具一式など約五〇万円でした。高田さんと奥さんは、すぐにホノルル警察に行って事情を説明し、被害届を提出しました。

お二人は、帰国後にそれぞれが加入していた損害保険会社に保険金の支払いを請求しました。奥さんが加入していたS保険会社からは、一ヵ月足らずのうちにほぼ満額の保険金が支払われました。

しかし、高田さんが加入していたT保険会社の方は、ほとんど梨の礫で具体的な進展はありません。何かおかしいと思った高田さんは、私の事務所に相談にみえました。