メディア・マスコミ
「小保方さん」から「小保方氏」へ、主観に頼って敬称を使い分ける日本の新聞
〔PHOTO〕gettyimages

万能細胞「STAP細胞」の論文問題では、理化学研究所のユニットリーダーを務め、論文の筆頭筆者になった小保方晴子氏をめぐる報道が過熱している。そんななか、「小保方さん」がいつの間にか「小保方氏」になっていることに気づいた人もいるのではないか。

ジャーナリストで恵泉女学園女学院教授の武田徹氏もその1人だ。4月12日付の毎日新聞に寄稿し、「キャラ偏重報道」に警鐘を鳴らしながら「さん」から「氏」への変化に注目している。

「さん」と「氏」を使い分ける基準

「たかが敬称」と思われるかもしれない。だが、ここにはメディアの構造問題が内包されている。「さん」から「氏」へどのぐらい変わったのか、記事検索サービスの「日経テレコン」を使って調べてみた。

まずは、小保方氏らがSTAP論文に英科学誌ネイチャーに発表した直後の1月30日から、理研が論文の問題点について中間報告を発表した3月14日までを対象に、朝日、毎日、読売3紙の朝夕刊紙面を調べてみた(読売は東京読売と大阪読売の合計)。検索キーワードは①「理研」「小保方」②「理研」「小保方さん」③「理研」「小保方氏」---の3通りとした。

すると、朝日では①で40本、②で30本の記事がヒットしたが、③は1本にとどまった。毎日と読売でも結果は似ている。毎日は①35本②20本③1本、読売は①48本②9本③2本。大半の記事が「小保方さん」であり、「小保方氏」はめったにないということだ。

次は、中間発表翌日の3月15日を起点とし、小保方氏が大阪で記者会見を開いた翌日の4月10日までを対象期間にしてみよう。結果は、朝日①62本②26本③33本、毎日①82本②28本③55本、読売①95本②16本③54本。「小保方氏」が「小保方さん」を圧倒していることが分かる。

新聞社には「さん」と「氏」を使い分ける明確な基準があるのだろうか? 答えはノーだ。担当記者と編集者が「フィーリング」で決めていると言ってもいい。ではそのフィーリングとは? 新聞社で四半世紀働いた個人的経験を振り返ると、「良い人」ならば「さん」付けで呼び、そうでなくなったら「さん」付けもやめる、である。

たとえば、一般人を記事に登場させる場合には「さん」付けにすることが多い。ここには「この人は善良な市民」という意味合いが込められている。大成功を収めた人も「さん」付けである。STAP論文を発表し「ノーベル賞も」などと持ち上げられた当初の小保方氏が代表例だ。「世の中のお手本になる人」という意味で「良い人」だからだ。

政治家や企業経営者ら有力者になると「氏」で呼んだり、肩書きを付けたりするのが普通だ。もっとも、趣味や家庭のことなどテーマによっては有力者であってもやはり「さん」付けにしている。新聞社での個人的経験では、「この人は私生活では良い人」といったニュアンスを伝えようとしている場合に「さん」付けにしていた。これが会社としての実質的表記スタイルであり、紙面を点検する限り他社も似たり寄ったりだった。

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