「ウクライナとクリミアの歴史的経緯を鑑みれば、ウクライナが"善"でロシアが"悪"なんていう簡単な構造ではないことがわかります」
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol034--「くにまるジャパン発言録」より
本コーナーは、佐藤優さんが毎月第一金曜日と第三金曜日に出演している文化放送「くにまるジャパン」での発言を紹介します。今回は4月4日放送分をお届けします。なお、ラジオでの発言を文字にするにあたり、読みやすいように修正を加えている部分もあります。野村邦丸(のむら・くにまる)氏は番組パーソナリティ、伊藤佳子(いとう・よしこ)氏は金曜日担当のパートナーです。

深読みジャパン

伊藤: 東京新聞国際面です。「ロシアがウクライナ大統領選へ圧力」。
軍事圧力でウクライナ南部クリミア半島を併合したロシアが、5月25日に予定されるウクライナ大統領選を前に、ロシア系住民が多い東・南部の自治権拡大につながる「連邦制」導入の憲法改正を迫り、ウクライナ新政権やてこ入れする欧米諸国に外交面でも揺さぶりをかけています。

ロシアは外交攻勢とともに、ウクライナ向け天然ガスの値上げを発表。また数万人の軍部隊をウクライナ東部国境沿いに結集させ、東・南部への軍事進攻がいつでもできる態勢を整えているもようです。

邦丸: 佐藤優さんが以前おっしゃっていたことは、このウクライナとロシアの対立は、毒ヘビと毒サソリの戦いだということでした。日本は下手に手を出さないほうがいいよと。

佐藤: そのとおりです。それから率直に申し上げて、この東京新聞の記事は素人の記事ですね。

邦丸: 素人の記事?

佐藤: はい。ロシアのこともウクライナのこともわかっていない人が、アメリカの情報を基にして書いている「素人の記事」ですから、鵜呑みにしないほうがいいと思います。

邦丸: ふむ。

佐藤: まず、「連邦制」の導入をすることはロシアの押し付けだとしていますが、実は、この問題を解決する方法は「連邦制」しかないんじゃないかという論考をいくつか、私はロシアが「連邦制」を言い出す前から書いているんです。

邦丸: はい。

佐藤: どうしてかというと、東部と南部のウクライナの人は、ロシア語を常用しているんですね。自分たちはロシア人なのかウクライナ人なのか、自分でもよくわかっていない。

ウクライナの今の政権には、「スボボダ」という自由党が入っているんですが、これはウクライナ語を常用する西ウクライナのガリツィア地方のウクライナ民族至上主義の人たち。ステパーン・バンデラというかつてナチスと協力してユダヤ人殺しをものすごくやった人が指導するグループがあったんですけど、その末裔なんです。このの「スボボダ」は国際基準でいうと「ネオ・ナチ」なんですが、そういう連中が閣内に入っているんです。

この政権ができたときに、公用語からロシア語を外した。今まで東・南部地域でロシア系の人、つまり国籍はウクライナだけれどロシア語をしゃべっている人たちが多いところでは、公用語としてロシア語も使えたんですよ。すぐにここでデモが起きた。

なぜかというと、公用語からロシア語を外すということは、公務員でウクライナ語をできないヤツはみんなクビということなんですよ。マスメディアもウクライナ語でしか記事を書けなくなる。企業もウクライナ語で役所と文書のやり取りをするから、幹部はウクライナ語をしゃべらないといけない。ところが、東・南部にはウクライナ語をできる人はあまりいないわけです。

だから、ニュース映像にも出ていた「火炎びんを投げていた兄ちゃん」とか、「猟銃をぶっ放していたおじさん」とか、そういうヤツらが西ウクライナから東・南ウクライナに入ってきて、市の幹部あるいは大きな工場の幹部になる。もともと東・南ウクライナに住んでいる圧倒的大多数の人たちは、公用語を使わなくても済むキツくて汚くて大変な仕事だけに就けという発想なんです。そんなことになったら、大変な混乱になる。

邦丸: ふーむ。

佐藤: それから、ロシアは軍隊を軽々に入れることはできないんです。例えばクリミアは、住民が本当にロシアに編入したいと、昔から思っているんです。そういう意味で、あそこは歴史的経緯がぜんぜん違うところですから。

そのクリミアと東・南部ウクライナでは事情が違うということを、ロシアはよくわかっているわけです。要するに、自分がロシア人かウクライナ人かよくわかっていないような人たちのところに軍隊を入れると、その人たちはロシアかウクライナかを選ばないといけなくなるんですね。その選択が家族のなかでも分かれて、家族で殺し合いが始まるわけですよ。そうなると、ウクライナ人とロシア人がいがみ合うことになるんです。

樺太(サハリン)や極東には帝政ロシア時代、ウクライナの出身者をかなり移住させているんです。北方領土にもウクライナ人が多いんですよ。このようなところでもインターネットやテレビを見て、「ロシア人はなんていうことをするんだ」と彼らは血が騒ぐんですよ。

それによって、ロシア国内でウクライナ人とロシア人の民族対立が起きたら、ロシアはもう収拾がつかないことになる。だから、軽々には軍隊を導入できないということは、専門家ならみんなわかることなんです。

邦丸: なるほど。

佐藤: 最近、アメリカの『フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)』を読んでいると、「ロシアが観光客を装って特殊部隊や武装集団をウクライナに入れている」「戦争がもうすぐ始まる」「ロシアはポルトガルまで狙っている」とまで書いてあります。

邦丸: ポ、ポルトガル?

佐藤: ドゥーギンというちょっと変わった思想家がいて、「ネオ・ユーラシア主義」ということを言っているんですが、それは、「ロシアがポルトガルまで狙うということなんだ」と、こういうことがアメリカの高級誌に出ているわけです。明らかにアメリカは今、異常な興奮状態にある。

邦丸: はあ~。

佐藤: リアルに考えた場合、ロシア系のロシア正教徒の人たちが住んでいる東と南、そこに地方政府をつくって、そこの経済や政治はその人たちが決めることにして、キエフの中央政府との間に連邦条約を結び、連邦制──ちょうど、カナダとケベック州、イギリスだったらスコットランドとイングランド、ウェールズのような関係──にしておけば、軟着陸としてはぜんぜんおかしくないシナリオだと思うんです。

邦丸: ふむ。

佐藤: ところが、この記事を見ると、ロシアが連邦制の導入で他国の憲法の改正に対して圧力をかけている、連邦制というのは悪いことだと言わんばかり。それは、今のキエフの中央政府にとっては、連邦制になると自分たちの利益を東にまで拡大できないというマイナスはあるでしょうけど。最初の頃は日本の報道もバランスがとれていたんですが、ここのところ圧倒的に、アメリカやイギリスの英語圏の情報攻勢によって、キエフ寄りになっていますね。

邦丸: いま手元に、この番組が始まる前に、佐藤さんに画像検索をかけてくれと頼まれたものをアウトプットしたウクライナの今の写真があります。これは、黄色い旗を掲げた兵士たちですか。

佐藤: 兵士ではなくて、スボボダの党員たちですね。

邦丸: ウクライナの与党に入っている自由党の党員が武装している。

佐藤: 実際に機関銃を撃ったり、火炎びんを投げたりしていました。

邦丸: 黄色の旗になにが描かれているかというと、ナチス・ドイツの鍵十字のようなもの。

佐藤: ハーケンクロイツなんです。それから、彼らは敬礼のし方も手をまっすぐに伸ばした敬礼です。

邦丸: 「ハイル・ヒトラー」と同じですね。

佐藤: はい。

邦丸: 実際にそういう画像があります。厳密に言うと、ハーケンクロイツとは微妙に異なり、「N」の字に縦線が一本入っているんですが、でも鍵十字形に見えますね。

佐藤: 鍵十字形であることは間違いないです。

邦丸: これはどういうことなんですか。

佐藤: もともとステパーン・バンデラというウクライナの民族運動の指導者がいたんですね。この人はウクライナの独立のために、最初にナチス・ドイツと手を組んだんです。30万人のウクライナ軍団をつくって大暴れして、ユダヤ人虐殺をやったんですね。

ところが、ナチスはウクライナ人を自分たちよりも下の劣等人種と見なし、「オストアルバイター」すなわち「東からの労働者」と呼んで、どんどん捕まえてドイツの工場で労働させたんです。これは約束が違うじゃないかとウクライナ人が「独立」を宣言したら、収容所に入れられた。

ただ、バンデラの軍団はそのままナチス側に残ったんです。そうして戦争が終わったところで、バンデラはアメリカによって釈放されたんです。当然、ソ連がウクライナを占拠したわけですから、バンデラはそのソ連のくびきからウクライナを解放するということで、ゲリラ闘争、テロ闘争をやって、ロシアの要人やロシアに協力するウクライナ人を殺していた。

そうしたら、このヤロー始末しちゃえということで、バンデラは1959年、KGBが放った刺客によってミュンヘンで殺されました。この刺客は、奥さんが東ドイツ人で、後に恋愛問題のトラブルからアメリカに亡命してしまうんで、このときのスパイの世界の様子がいろいろわかったので、おもしろいんですけどね。

邦丸: へえ~。

佐藤: スボボダは、こういう経緯のある人の肖像画を掲げ、その人が主張したウクライナの姿に戻せと言っているんです。ですから、国際的には「ネオ・ナチ」と認定されています。

邦丸: そういう人たちが今のウクライナ政府の与党に入っているわけですよね。過去の経緯を伺うと、「毒ヘビvs.毒サソリ」の構造は、ウクライナが"善"でロシアが"悪"なんていう簡単な構造ではないということがわかりますね。

佐藤: 両方とも"悪"です。

邦丸: ふーむ。

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol034(2014年4月9日配信)より

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