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『天体衝突』
斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史
松井孝典=著

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1万度を超える蒸気雲、
マグニチュード11以上の地震、
300メートルの津波、酸性雨──
そして「衝突の冬」が恐竜を滅ぼした。


まえがき──斉一説から激変説へ

 地球や生命の歴史を考える時、その基礎となる、根本的な原理とでもいうべき考え方がある。というか、正確には、あったというべきだろう。斉一説(ユニフォーミタリアニズム)という。現在生起する自然現象が過去にも起こっていたとして、過去の現象を解釈しようという考え方のことである。それは地球や生物の進化が、長い時間をかけてゆっくりと変化するという考え方(漸進説)といってもよい。

 それに対し、激変説という考え方がある。ある時、突発的な事件(天変地異)が起き、そのことにより自然が変化するという考え方である。19世紀初頭に地質学が誕生し、その中頃ダーウィンが自然淘汰による進化論を発表し、斉一説、あるいは漸進説の考え方が「科学的」とされ、定着した。しかし、それ以前においては、その当時の有名な自然哲学者により、激変説はしばしば提唱されていた考え方である。

 斉一説に対し、その公然たる批判が展開されたのは、1980年以降のことである。この年、アルヴァレス親子等により、6550万年前の恐竜を初めとする生物の絶滅は、直径10km程の小天体の衝突によって引き起こされた突発的な環境変化による、という考え方が提唱された。その是非についての論争は30年にわたって続けられたが、2010年に、論争は決着する。1980年以後に発表された膨大な量の関連する論文のレビューに基づき、6550万年前の生物絶滅は、小天体衝突によるとの結論が報告されたのである。

 これは、まさに、科学におけるパラダイムシフトの例である。今では、地球史や生命史が、天体衝突という激変に関わることに、疑義を呈する研究者はほとんどいない。しかし、それでは天体衝突が文明史に関わるか、となるとノーである。今もってその主流の考え方は、斉一説であり、漸進説である。2013年2月15日に、ロシア・チェリャビンスクに落ちた隕石は、この問題に新たな一石を投じた。天体衝突が文明に影響を及ぼすかもしれないという危倶が、世界的に共有されたからである。宇宙からの天体衝突を監視し、衝突する可能性がある場合にはそれに対処する方策を、世界で考えようという気運が高まっている。本書では、天体衝突と激変説に関する、最近の議論を紹介したい。
 

著者  松井孝典(まつい・たかふみ) 
1946年、静岡県に生まれる1970年、東京大学理学部地球物理学科卒業。現在、東京大学名誉教授、千葉工業大学惑星探査研究センター所長、理学博士。専門は比較惑星学、アストロバイオロジー。地球を1つのシステムとしてとらえ、環境・文明など広い視点から研究を進めている。著書には、『スリラン力の赤い雨』(角川学芸出版)、『生命はどとから来たのか?』(文春新書)など多数。
『天体衝突』
斉一説から激変説へ 地球、生命、文明史

著者:松井孝典

発行年月日:2014/4/20
ページ数:280
シリーズ通巻番号:B1862

定価:本体 980円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)