ジョセフ・スティグリッツ「グローバリゼーションの悪い面について」『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より

2014年04月21日(月) ジョセフ・スティグリッツ

ジョセフ・スティグリッツThe New York Times

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TPPを批判する者が数多いその理由は、TPPのまわりを固めるそのプロセスや理論も破たんしているからだ。反対者が続出するのは米国国内だけではない。アジアも同じで、会談は行き詰まってしまった。

TPPの一括承認手続きの権限を大統領に与えることに絶対の反対を訴えているリーダーである上院多数党院内総務のハリー・リード(民主党)は、われわれ全員にしばしの休息をもたらしたようだ。企業利益のために99%が犠牲となるのが貿易協定だと考える人々は、この小競り合いに勝利したようだ。しかし、多くのアメリカ人の生活水準を上げるための、貿易政策や、より一般的に言えば、グローバリゼーションの設計を保障するための大規模な戦いが残っている。この戦いがどうなるかは、いまだ予測できない。

「トリクルダウンによって潤う」は神話

この格差シリーズで私は、2つの点を強調してきた。

最初のポイントは、今日の、米国における甚だしいレベルの格差と、ここ30年間でのその増大が、一連の政策、計画、法律の累積された結果だということだ。仮にも大統領自身が、格差は米国にとって最優先の課題であると強調したからには、あらゆる新規の政策、計画、法律が、その格差に与えるインパクトの視点から吟味されなければならない。

TPPのような協定は、この格差の重要な一因となってきた。企業は利益をあげるだろうし、保証はできないが、GDP(国民総生産)が従来の計算で言えば増える可能性すらある。しかし普通の市民の幸福は損害を受けそうだ。

そしてこの事実は、私がこれまで繰り返し強調してきた2つ目のポイントに導く。トリクルダウン経済学(※)は神話だ。企業を太らせることは、TPPのように、必ずしも中間層を助けることにならない。ましてや最下層の人々にとっては言うまでもない。

(※)トリクルダウン経済学:「トリクルダウン(trickle down)=したたり落ちる」の意。大企業や富裕層の支援政策を行うことが経済活動を活性化させることになり、富が低所得層に向かって徐々に流れ落ち、ひいては国民全体の利益となる」とする仮説。主に新自由主義政策などの中で主張される。

(翻訳・松村保孝)
現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』vol073
(2014年4月11配信)より

 

ジョセフ・E・スティグリッツ---ノーベル経済学賞受賞(2001年)。コロンビア大学経済学部教授。クリントン政権で経済諮問委員会委員長、その後、世界銀行で上級副総裁、主席エコノミストを務めた。いま世界的にみて、最も活動的で影響力のある経済学者の1人である。邦訳に『世界の99%を貧困にする経済』など
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