スポーツ

[裏方NAVI]
田中礼人(卓球男子日本代表フィジカルコーチ)<前編>「意識改革による変化」

2014年04月16日(水) スポーツコミュニケーションズ

「フィジカル強化の必要性」――2001年から12年ロンドンオリンピックまで卓球日本男子ナショナルチームの監督を務めていた宮﨑義仁(現「2020ターゲットエイジ育成・強化プロジェクト(タレント発掘・育成コンソーシアム)」コーディネーター)のレポートによく出てきた言葉だ。
「世界選手権やアジア大会など、毎年国際大会を戦う中で、大会後の反省文に毎回出てくるワードが、“フィジカル強化”でした。卓球は、一瞬のパワーを何度も出さなければならない。しかし、日本人選手は俊敏性はあっても、一瞬のパワーを出し続ける体力がなかった。卓球に見合ったフィジカルを身につけなければ、世界に太刀打ちはできないと感じていたんです」
 そこで、宮﨑は協会に専属のフィジカルコーチ採用の必要性を訴えた。協会もそれに賛同し、10年4月、3カ月の研修を経て代表初の専属フィジカルコーチが誕生した。それが、田中礼人である。

 田中が初めてナショナルチームの様子を目にしたのは、09年12月。翌年に控えた世界選手権の選考会のことだった。日本のトップ選手たちが集結した選考会で、田中は試合前のウォームアップからじっくりと観察した。正直、選手たちのフィジカルへの意識は意外にも低かった。ウォームアップやクールダウンのやり方も決して完璧とは言えなかったという。
「自分がやらなければいけないことは、たくさんあるな」
 田中はフィジカルコーチとしの責任とやりがいを感じずにはいられなかった。

アップとダウンの重要性

 田中が就任して、まずはじめに着手したのは、意識改革だった。ウォームアップやクールダウン、フィジカルトレーニングの重要性をひとつひとつ丁寧に説明しながら、やり方を伝えた。
「気を付けたのは、専門用語を使いすぎないこと。できるだけ噛み砕いて、わかりやすい言葉で伝えようと思いました。とにかく大事なのは、選手たちが納得すること。なぜ必要なのかを理解してやるのと、理解せずにやるのとでは、成果はまったく違うんです。だから“言って、見せて、やらせて”というのを繰り返しました」

 同時期に専任コーチに就任したのが、現在監督を務める倉嶋洋介だ。倉嶋は、田中についてこう語っている。
「トレーナーと言えば、厳しいイメージを抱いていたのですが、彼はとても穏やかで明るい。初めて会った時は、イメージとのギャップに驚きました(笑)。でも、いざトレーニングのこととなると、やっぱり厳しいですね。弱音を吐く選手に対しても、最後まで付き合って、やらせようとしますから。でも、ただやらせるのではなく、繰り返し重要性や効果を説明するんです。だから、選手たちも納得してやれるんだと思いますよ」

 まず成果があらわれたのは、ウォームアップとクールダウンだ。1カ月もすると、選手たちから「するのとしないのとでは、全然違う」という声が聞かれるようになったのだ。ウォームアップは、練習に入った時の身体の動きを変えた。
「ウォームアップをしないまま練習に入ってしまうと、ケガの原因やパフォーマンスの低下につながります。そうならないために、ウォームアップで徐々に筋温や心拍数、関節可動域を高めていき、身体に“これから動きますよ”というシグナルを出しておく。そうすると、スムーズに身体を動かすことができるんです」

 一方、練習や試合の後にクールダウンするかしないかでは、翌日以降の疲労の度合いが異なる。
「激しい運動をすると疲労物質が体内に蓄積されます。その状態のまま放っておくと疲労物質が分解されにくく、翌日に影響を及ぼす。だからクールダウンをすることによって、筋肉を元の状態に戻し、疲労物質をエネルギーに替えておくことが必要なんです。最近では激しく動いた後に有酸素運動を10~15分すると、疲労物質がエネルギーに替わる、とも言われているんです。疲労回復のポイントは軽い有酸素運動とストレッチング、そして食事や睡眠です。」

1
nextpage


Special Feature