佐藤優の読書ノート---憲法を通じ、国家の本質を掘り下げた名著『未完の憲法』

読書ノート No.105

奥平康弘/木村草太『未完の憲法』潮出版社、2014年5月

憲法を通じて、国家の本質について掘り下げた議論をする名著。憲法改正に関する両者の以下のやりとりが興味深い。

<奥平 「日本国民は政治決定に無関心すぎる」といういまの話ですが、僕はその「日本の民主主義は未成熟だ」と考える人たちとは、少し見方が違います。たしかに、憲法改正もしくは新憲法制定ということについて、無関心な国民が多いというのはそのとおりだと思います。そのことがよいか悪いかは別にして、憲法改正を大多数の国民が熱望したことは一度もなかったし、いまもそういう機運はありません。さきほど僕も言ったとおり、それは一種の革命ですからね。日本国民はいま、革命を望んではいないのです。

ただ、そのことをもって「だから日本の民主主義は未熟なんだ」「日本国民は立憲主義がわかっていないんだ」「作為の契機がなかったからダメなんだ」と言われると、ちょっと違和感を覚えますね。

木村 いまの日本人の憲法理解は十分に進んでいるし、日本の民主主義も成熟してきている――先生はそのようにお感じなのですね。

奥平 そうですね。それは平均的日本人が、日本国憲法の個別の条文をどれくらい理解しているとか、憲法学の基礎知識があるかとかいうこととは、必ずしも直接関係がない。そういうこととは別に、憲法の根幹となる考え方は、いまの日本人に相当程度浸透し、定着していると感じます。憲法研究者の一人として、「まあまあいい線いってるんじゃないの」という合格点は上げられますね(笑)。その結果として、日本国憲法はきちんと生き残っているわけです。

木村 「生き残っている」とおっしゃるのは、たんに憲法が一度も改正されなかったという意味ではなく、日本社会の中にきちんと根付いているということですね?

奥平 そうそう。たとえば、憲法自体は変えなくても、個別の法律を作ることで時代の変化に対応して憲法的精神をそこに反映させるとかね。そういうことが割ときちんとできている社会だと思う。立憲主義という言葉を知らない人々の中にも、立憲主義の精神はきちんと息づいている……そんな印象があります。民主主義が未熟どころか、日本国憲法を七〇年近く守ってやってきた日本の民主主義は、いまではかなり成熟してきていると思う。安倍政権が九六条先行改正案を打ち出したときに、それに反対する世論が一気に出来上がったことは、その成熟の一つの表れだと思います。

木村 そう考えると、改憲に突き進む安倍政権は、進めば進むほど国民の意識と乖離していく気がしますね。

奥平 そう思います。改憲に向かうような国民の意識が醸成されないまま、政治の世界の改憲論だけが国民を置いてきぼりにして前に進んでいる感じですね。それはやはり恐ろしいほど政治的な動きであって、諸外国から見たら異様に映ると思いますよ。>(88~90頁)

立憲主義が国民に定着しているという奥平氏の指摘は、その通りと思う。むしろ政治エリート(自民党だけでなく、日本維新の会、民主党の大多数)が、家族の同心円上に国家を想定しているので、立憲主義がわからなくなっている。木村氏の「改憲に突き進む安倍政権は、進めば進むほど国民の意識と乖離していく気がしますね」という指摘は、事柄の本質を衝いている。

改憲論の前に、国家論について十分な議論をしておかないと、日本の社会と国家を強化する方向での憲法改正はできない。

さらに本書では論じられていないが、統治機構に関して、沖縄との国家統合を真剣に考えるならば、連邦制の導入が不可欠になると思う。

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・木村草太『憲法の創造力』NHK出版新書、2013年
・高橋和之編『新版 世界憲法集第2版』岩波文庫、2012年
・オットー・ケルロイター(矢部貞治/田川博三訳)『ナチス・ドイツ憲法論』岩波書店、1939年

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.034(2014年4月9日配信)より

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