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Vol.1「ウクライナ問題が浮き彫りにした「新冷戦」という構造」はこちらからご覧いただけます。

中国は「孫子の兵法」の国

長谷川: 中国はウクライナの事態をしっかり見ているに違いないと思うんですよ。中国は今、どういうふうに考えるでしょうか? つまり、「プーチンの試みが成功するのであれば、俺たちも尖閣でやってみるか」となりませんか?

長島: 住民のいるクリミアと人のいない尖閣、しかも実効支配は日本がしていて、国際社会も注視している。こういった違いもありますから、必ずしもパラレルで考えることはできないと思いますが、おそらく中国はロシアの行動とそれに対する欧米のリアクション、国際社会の受け止めを見極めていると思います。

形は違うけれども、中国が自らの意思を強制したときの反応はどのくらいなのか、西側にはどういうオプションが残っているのか、ということをしっかり見極めようとするでしょう。とはいえ、私は中国はそんなに冒険主義に出てくる国ではないと思っています。

中国はまさしく「孫子の兵法」の国ですから、この30-40年の南シナ海での出来事を振り返れば、出てくるときにはほとんどリアクションがない状態を予め整えたうえで出てくるということになると思います。ただし、そのペースが今回のことで、これまで彼らがたとえば漠然と10年くらいのスパンで考えていたものが、どのくらい前倒しされることになるかというのは、私たちは相当深刻に考えなければならないと思っています。

「力の拡散」に、不安定化する世界

長谷川: 前回、チェンバレンに言及されましたが、最初に中国がやってみようと思って冒険したのは、実は南シナ海における行動だったのかもしれないと思います。最近のニューヨーク・タイムズのインタビューで、フィリピンのアキノ大統領が「中国のやっていることはヒトラーのナチスと同じだ」ということを言いましたね。

南シナ海で1995年にアメリカがフィリピンから撤退した直後に中国がミスチーフ礁を占拠し、実効支配を始めました。それからここ2、3年、急激に例のスカボロー礁を実効支配しかかっていて、2014年の1月には「南シナ海で中国の許可なく漁船の立ち入りを禁止する、立ち入りたいのであれば、中国の許可を求めろ」ということを言い出した。

それでアキノ大統領はたまらずに「これはヒトラーのナチスと同じだ、世界はこれを黙認するのか」と、まさに先ほどおっしゃったチェンバレンの宥和政策を引き合いに出して、世界に訴えたわけですね。それに対して南シナ海の自由をアメリカはずっと言っているけれども、実効的な反撃というのはできないまま現在に至っています。逆にプーチンもその辺りの中国の振る舞いを見ているのかもしれないな、と思います。

長島: 中国もロシアも、ともに権威主義的なレジームでもありますし、外交において力を行使することにわれわれほど躊躇いのない指導体制ですから、当然そういう思考のキャッチボールはしているはずです。中国の振る舞いに対して欧米がどう対応するのかを見ながら、ロシアは自分の行動を決め、ロシアの行動に対しては中国がそれを観察するという。これは覇権国であるアメリカの力が後退しているからこそ起きていることで、それだけプレイヤーがたくさん出てきて不安定になっていくわけです。

これはまさに私も自分の本(『活米という流儀―外交・安全保障のリアリズム』(講談社)で書いたことなのですが、2012年の12月に出されたアメリカの国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)による「2030年の世界(Global Trends 2030)」というレポートがあります。そこでこれから2030年までの世界の様相を端的な一言で表したのが、「Diffusion of Power=力の拡散」です。アメリカの力が相対的に落ちて、力が拡散することによって世界が不安定になる、と。

今私たちは、その予告編を見せられているようなものです。南シナ海における中国、ウクライナにおけるロシア。こうした事態をわれわれが非難しているけれども、それをピシャリと止めることはできないわけですね。こういう世界のなかで日本もこれから外交安全保障分野に相当なエネルギーを投入しなければならないということだと思います。

本格的な近代化を迫られたロシア

長谷川: 中国はOECDのレポートでも、2016年にはPPP(Purchasing Power Parity:購買力平価)の為替レートで世界ナンバーワンになるだろう、といわれています。だから、アジア・太平洋では中国のナンバーワン化というのはもう誰にも止めることはできない。アメリカももちろんそれをしっかり認識して対応していると思うんですが、一方ロシアにとってみると、かつて米ソで仕切っていた世界が、米中で仕切られようとしているわけで、これはロシアのプーチンにとっては耐え難いことなのではないかな、と思うんですが。

長島: そうですね。ただし、最近私はロシアの政治家や専門家と話す機会が多々あるんですが、彼らは驚くほど無関心を装うというか、それは大国ロシアのプライドの裏返しかもしれませんけれども、われわれ日本側のほうがむしろ中国の将来的な国際秩序に対するチャレンジャーとしての深刻な行動というものをアピールするんですが、彼らはそれに対して「それほどでもない」という言い方をいつもしてきます。私はいつもすれ違いで歯がゆい思いをするのですが、中国に対抗するにはやっぱり経済的な力をつけなければいけないということをロシア側は一つ考えているのだと思います。

今のロシアは結局のところ、資源を元手にして何とか経済を回しているに過ぎないわけです。中国が台頭してきているのは、力はもちろんついてきていますけれども、その源泉としての経済力があって、市場規模も大きいわけです。やはりロシアも本格的な経済の近代化を必要としていて、その近代化なくして大国ロシアの復活はあり得ないということをロシアの人たちもよくわかっているのだと思います。

今のロシアはある意味では中途半端な大国で、老大国だったのを一生懸命つぎはぎして盛り返しているところなので、その辺はロシアも中国が台頭してくる、あるいは極東地域で中国から圧迫を受けているということについては、もちろん心穏やかではないと思うんだけれども、しかしもう少し自分たちが地力をつけないと中国ほど国際社会から影響力の点で一目も二目も置かれるような存在にはなりにくいという自覚があるのでしょう。

外交力がためされる日本

長谷川: だからこそプーチンは安倍さんとの2013年春の会談をして、日ロの経済協力を進めようというふうに言ったんだし、オホーツク海の海底油田の開発も共同でやろうということになったわけですよね。

長島: 北方領土問題で一歩も譲らずにそこまで持っていったわけです。期待感だけで。それは私は見事なプーチンの外交だと思います。

長谷川: そういうふうに考えると、プーチンにとって日本との関係のメリットというのは、やっぱり自分たちにとってすごく大事なある種核心的な問題なのだから、逆に日本はロシアと話ができる関係になっているわけですよね。先ほど言ったように、安倍さんとは5回も会談しているわけですから。・・・・・・この続きは、現代ビジネスブレイブイノベーションマガジンvol070(2014年3月26日配信)に収録しています。

長島昭久(ながしま・あきひさ)---1962年神奈川県横浜市出身。衆議院議員。民主党副幹事長。慶應義塾大学大学院修了、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)修了。前防衛副大臣、元総理大臣補佐官(外交及び安全保障担当)。衆議院安全保障委員会筆頭理事。
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