ドイツ
中世の魔女裁判を思い起こさせるエダーティー事件の"モラル攻撃"
セバスチャン・エダーティー氏 〔PHOTO〕gettyimages

「スキャンダル週刊誌の話題のようで、ちょっと躊躇するところもあるのですが」と前置きをしつつ、ちょうど起こったばかりだったエダーティー事件に触れたのは、2月末、東京の日独協会で行われた講演のときだった。

日独協会では、帰国の度に"ドイツの選択"と銘打って話をさせてもらうのが恒例になっている。テーマは特定のものに絞ることもあれば、ドイツのそのときどきの政治の展開、社会問題、あるいは、世相を表す出来事などを選ぶこともある。

この日は、ようやく始動し始めたドイツの大連立政権(第3期メルケル政権)について話し、その最後にエダーティー事件を盛り込んだのだった。

違法行為があったかどうかはまだわからない

セバスチャン・エダーティーは2月までSPD(ドイツ社民党)所属の国会議員で、それも、40歳の前途洋々の政治家だった。エダーティーという変わった苗字は、父親がインド人だからで、よって風貌も少し浅黒く、エキゾチックだ。

エダーティー事件の発端は、カナダのオンラインショップが摘発されたことに始まる。違法の児童ポルノを販売していた会社だ。2013年になってカナダの検察が、ドイツ在住の顧客の名前をドイツの連邦検事局に知らせた。その800人の名前の中にエダーティー議員の名前があった。ただ、この時点では、もちろんまだ何も国民の耳には入っていなかった。

ドイツの連邦検事局は内務省に所属する機関であるので、2013年の10月、この捜査情報を当時の内務大臣であったフリードリヒ氏(CSU・キリスト教社会同盟)に知らせた。大臣はもちろん、このような情報を漏らすべきではない。

ただ、この時のフリードリヒ内相の心中を察することは容易だ。9月に総選挙を終えたばかりのドイツでは、大連立のための交渉の真っ最中。大連立が成立するだろうということはほぼ確定していたので、つまり、その頃、CDU(キリスト教民主同盟)とその姉妹党であるCSU、そしてエダーティー氏の属するSPDは、壮絶な閣僚の席の奪い合いをしていたのだった。

大連立の成立は12月の半ばということまでわかっていた。そのあと、新しい人事が発表される。首相がメルケル氏、副首相がSPDのガブリエル氏というのは想定済みだ。

しかし、その他のポストは? もしも要職にSPDのホープとしてエダーティー氏が登場し、そのあとすぐに捜査が入ったりしたら、できたばかりの政権はスキャンダルに巻き込まれて打撃を受けるだろう。そうならないためには、SPD幹部にこの情報を知らせておくべきではないか・・・と、おそらくフリードリヒ大臣はそう考えたに違いない。

こうしてフリードリヒ氏から内密に情報を得たSPDのガブリエル党首は、それを党内の古株シュタインマイヤー氏(連邦議員団長・当時)とオッペルマン氏(連邦議員団長・現)に伝えた。

しかし、この時点では、というか、現在もそうだが、エダーティー氏が不法な児童ポルノを所有していたという証拠は一切挙がっていない。摘発されたカナダのオンラインショップは、合法の物も販売していたのだから、顧客リストに名前が載っていたとしても、それだけではまだ違法行為があったかどうかはわからないのである。

さて、このあいだに、謎めいたこともいろいろ起こっていたという。

たとえば、エダーティー氏の弁護士が、この事件の管轄となっていたハノーヴァーの検察に対して内密に情報を求めていたり、検察からの2月7日付のエダーティー関連の書簡が5日遅れで、しかも封が開いたまま届いたり、ちょうどその日にエダーティー氏が健康上の理由で議員を辞職したり、氏のノートブックが盗難に遭ったりという、探偵小説のような出来事だ。

情報を把握していた人間の数は、おそらくもっと多かったのだろう。そして、それはエダーティー氏自身の耳にも入っていたと思われる。

2月11日、エダーティー氏の自宅と事務所の捜索が始まった。それをマスコミが嗅ぎ付け、新聞ですっぱぬいた。すると、こともあろうにSPDのオッペルマン氏が記者会見を開き、暴露した。

何を暴露したかと言うと、児童ポルノ所持の関連捜査にエダーティーの名前が挙がっているという情報を、フリードリヒ内相がSPDに流したという事実を暴露したのだった。これを受け、フリードリヒ氏(新政権では農相だった)は翌日辞任に追い込まれた。その後、検事局の記者会見も続いた。

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