読書人の雑誌『本』
『ティムール帝国』著:川口琢司---ティムールと世界有数の大都市・サマルカンド
ティムール帝国』著:川口琢司
価格:1,750円(税抜)
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突然で恐縮だが、ティムール(一三三六?~一四〇五)という世界史上の人物をご存じだろうか。名前は聞いたことがあるが、どういう人物かまではちょっと、という方が多いのではなかろうか。

日本で言えば、鎌倉幕府が滅亡して南北朝の動乱がはじまったころから室町幕府の成立を経て三代将軍足利義満が権勢の頂点に達したころまで生きた人物である。高校世界史の教科書ではかならずとりあげられるのだが、当時の日本とまったくかかわりをもたなかったため、日本人にはなじみのない人物になってしまっている。

そこで、この人物のことを少しでも知ってもらおうと、今回、講談社選書メチエの一冊として『ティムール帝国』という本を世に問うことになった。わが国ではいままでティムールやティムール帝国だけを正面からあつかった本は刊行されたことがないと思うので、この種の本は本邦初と言えるかもしれない。

ティムールは中央アジアに生まれ、ユーラシア各地に遠征をくりかえした結果、あのモンゴル帝国を髣髴とさせるような巨大な帝国をユーラシアに築いた人物である。このため、ウズベキスタン共和国を中心に旧ソ連から独立した中央アジア諸国ではたいへん有名な人物であり、当然のことながら、これまで関連書籍も数多く出版されている。

私がこの人物に興味をもつようになったきっかけは、一九八〇~八一年と一九八三~八四年の二度にわたって放映されたNHK特集『シルクロード』だった。喜多郎の美しいテーマ音楽と石坂浩二の抑制のきいたナレーションでおぼえておられる方も多いのではなかろうか。

この番組をきっかけに日本では空前の「シルクロード・ブーム」が巻きおこった。番組はちょうど私が大学の学部在学中から大学院修士課程に進んだころに放映され、歴史学を専攻しようと決めていた私を否応なく中央アジアという未知の世界へと誘った。そのなかでサマルカンドやシャフリ・サブズを建設したティムールのことが紹介され、この人物を詳しく知りたいと思ったのがすべてのはじまりだった。

ティムールのことを調べていくうちに、実際、かれがたいへん興味深い人物であることがわかってきた。とにかく、例を見ないような波瀾万丈の人生なのだ。帝国を建設するような人物はやはり二代目や三代目とはなにかがちがうと思いながら、その生涯にすっかりはまってしまった。