サッカー
二宮寿朗「色のない無観客試合が教えてくれたこと」

 3月23日、筆者は埼玉スタジアムにいた。
 浦和レッズのサポーターがホームのサガン鳥栖戦(3月8日)において「JAPANESE ONLY」という差別的な横断幕を掲げたことによる浦和に対する処分で、この日の清水エスパルス戦はJリーグ初の無観客試合となった。

ファン、サポーターと一体となる尊さ

 不思議な空間だった。
 間もなく試合が始まるというのに、いつも4万人ほどが集まるスタジアムの周辺にファン、サポーターが誰もいない。にぎやかな声もない。報道のヘリコプターが飛ぶ音だけが耳に入ってくるのみ。

 浦和のスタッフから携帯電話の着信音が鳴らないようにと、記者席にずらりと並ぶメディアに要請があった。確かにこんな状況で着信音が鳴ってしまえば、プレーする選手たちの耳に届いてしまう。筆者も慌ててマナーモードになっているかどうかを確認した。

 天気は快晴。少々肌寒いとはいえ、サッカー観戦日和である。

 入場曲もなくピッチに入ってきた選手たちの表情は一様に硬かったが、自分たちを盛り上げていく意味もあったのだろう。試合開始のホイッスルを待つ間、浦和側からも清水側からも、「集中しようぜ」「行こうぜ」などとの声が聞こえてきた。DF槙野智章が試合後に語っていたが、ロッカーでは音楽のボリュームを上げるなどして一生懸命、テンションを上げようとしたようだ。

 しかしながら――。

 声を出してテンションを高く保とうとしていたのは分かるが、両チームともに出足が鈍いように感じてしまう。気持ちは入れたつもりでも、本当のスイッチをなかなか入れられない。心と体がうまくフィットしないまま、時間が流れていったように思えた。

 ファン、サポーターの力というものをあらためて痛感させられる思いがした。選手のプラスアルファの力は、ファン、サポーターによって引き出されるものなのだ、と。声援が彼らの背中を押し、彼らを勇気づける。だからこそ選手たちは勇気を持って、プレーできる、ファイトできる。ファン、サポーターと一緒に喜びたいから、勝利に向かって全力を尽くせる。

 ピッチとスタンドが一体となる瞬間、その尊さ。
 それがサッカーであり、それがJリーグであるのだと、筆者はあらためて思った。