田原総一朗×植木義晴(JAL代表取締役社長)【第2回】
「採算を意識することで、社員一人ひとりの意識の根底の部分が変わってきている」

[左]植木義晴さん(JAL代表取締役社長)、[右]田原総一朗さん(ジャーナリスト)

【第1回】はこちらをご覧ください。

自分たちで会社を守らなければ誰も守ってくれない

田原: 京セラの稲盛和夫さんが再建のためにトップになって、彼はまず社員に向かって何をしたんですか?

植木: 難しい質問ですね。先ほど言いかけましたが、やっぱり大きくやったことは構造改革と意識改革の二つだと思います。

田原: 構造改革っていうのは、つまりリストラですよね?

植木: そうです。当時は更生会社でしたから、裁判所から任命された管財人がいました。もちろん私たちも全て協力しました。

構造改革は、一時的に構造を改革するだけであって、そのなかに「魂」が入らなければ、元の木阿弥に戻ると私は思っています。この構造改革の部分にも稲盛さんには力を発揮していただきましたけれども、むしろそれよりも大きかったのは、やっぱり意識改革の部分です。

田原: 僕は実は稲盛さんのことを30代の頃からよく知っているんですよ。彼のいちばん得意な言葉は「世の中に失敗はない。失敗とはチャンレンジを忘れることだ」と。

植木: 「成功するまでやめなければ失敗ではない」ということですね。

田原: 相当キツいと思うんです。抵抗はなかったですか?

植木: 稲盛名誉会長は私たちにフィロソフィーの重要性を教えてくれました。破綻当初から「君たち、この会社には高学歴のインテリが揃っているだろう。こういうところがいちばん私の経営フィロソフィーを吸収しにくい集団なんだ」とおっしゃっていたし、僕もその通りだと思っていました。

ただ、稲盛さんも「どうしてこんなに短期間にみんなのなかに広がっていったのかね」と驚いていました。でもそれは、経営破綻したからだと思います。

田原: 意識改革というと、どういう意識からどういう意識に変わったんですか?

植木: それはもう、お話を始めるときりがないほどあるんですが(笑)、いちばんわかりやすい例を挙げると、やっぱり、採算意識というものを持っていなかったんですよ。社員一人ひとりが。会社を他人事のようにとらえていたわけです。

先ほど田原さんはJALを「官僚的だ」とおっしゃったし、もう一つよく「親方日の丸的だ」ともいわれました。それはその通りで、社員はみんな潰れない会社だと思っていたんです。だから、それにあぐらをかいていた。

一方で自分たちの主張だけはしていた。「私たちは一生懸命仕事をしているんだから、いただくものはいただきますよ」と。会社の経営が苦しかろうがどうであろうが。そんなスタンスだったと思います。

そこから採算意識がなぜ変わったかというと、経営破綻をきっかけに「この会社は俺たちのものだ」とみんなが思い始めたからです。「俺たちが守らなければ、誰がこの会社を守るんだ。自分たちで守らなければ誰も守ってくれない」と。

昔は社員が約5万人いたわけです。社員を歯車と考えると「歯車一つくらい、俺1人くらい欠けたって大丈夫」とみんな思っていた。今は3万2000人に減りましたが、3万2000個の歯車の一つであることに違いはない。でも、みんな「俺が欠けたら大変だ」と思っている。それだけのことなんです。だから「まず俺が中心になって頑張るんだ」と、そういうふうにみんな思い始めてくれたんです。

お恥ずかしい話ですが、かつては私もそうでした。昔は決算が出ても、会社の経営状況や財務状況がどうのこうのなんて社員のなかで話題になったことがないんですよ。新聞を見て「へぇ、そうなんだ」と言っているくらいのものでした。

でも今は、決算の発表日は社員みんなが知っているし、発表時間になるとみんなパソコンの前に張りついて「ああ、ここまでいったね。よく頑張ったよね。でももう少し頑張ろう!!」という言葉が漏れるようになってきている。社員一人ひとりの意識の根底の部分が変わってきているんです。

昔、私がパイロットとして乗務していたとき、行きの便の予約状況は知っていましたが帰りの便までは知らないから、客室乗務員のチーフに「帰りはお客さまはどのくらい乗ってらっしゃるの?」と聞くと、イヤそうな顔をして「今日は満席なんですよ」と言うんです。つまり、満席だと仕事が忙しいし大変だからイヤな顔をするんです(笑)。

それが今はニコニコしながら「今日は満席なんですよ」と言うんですね。本当に小さな違いですけどまったく変わったなと。みんなの感覚が変わりましたね。それは本当に嬉しいことだと思います。

だから、田原さんにお願いしたいのは、弊社の社員をじっくり見てやって下さい。必ず変わっていますから、うちの社員たちは。人に誇れる社員になっていますから。

田原: 破綻前と比較すると笑顔や接客もよくなったと思います。

植木: ありがとうございます。でも、そこだけではなくて、そのなかにある「心」を感じてほしいのです。それだけの社員が増えてきたと思っています。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら