格差・貧困
ニッポンは「新・階級社会」になった!【第1部】金持ちや高学歴の人が幸せなわけじゃない 高卒ヤンキーの「幸せ」と海外移住するエリートの「不幸」
あなたの常識がひっくり返る
安達 誠司 プロフィール
〔PHOTO〕gettyimages

ますます富めるエリートと、ほどほどの生活に満足感を覚えるヤンキー。決して越えることのできない「価値観の壁」が、この国を分断しつつある。

「取り残される」のが怖い

3月だというのに、常夏の国シンガポールでは燦々と陽光が降り注いでいる。中島俊二さん(45歳/仮名)は、中庭のプールではしゃぐ子供たちの声を耳にしながら、ノートパソコンに向かって株価をチェックしていた。

「この国では、ほとんどの集合住宅にプールがついています。子供を自由に遊ばせていても、メイドが見ていてくれるから安心できます。たいていの物件には女中部屋があって、フィリピンやミャンマーから出稼ぎに来るメイドを雇う人が大半ですよ」

部屋を見せてもらうと、メイドのスペースと居住者のスペースは鍵のかかるドアで仕切られており、旅行で長期間留守にするときや、知られたくない来客があるときなどは、プライバシーを確保できる構造になっていた。女中部屋も含めて100m2ほどの物件で、家賃は約50万円だ。

中島さんは3年前、東京で経営していたIT企業の拠点をシンガポールに移し、夫人(36歳)と一人娘(4歳)と共に引っ越してきた。法人税が安いことや、成長著しい東南アジアの中心にあることなど、移住の利点はいくつもあったが、決め手になったのは「相続税が存在しないこと」だった。

「これから高齢化を迎えて、無駄な税金ばかり払わされることが目に見えている日本にいても仕方がないと感じたんです。今はアベノミクスだ、東京五輪だと騒いでいますが、長期的に見て日本という国の経済が立ちいかなくなることは明らかです。まともな成長戦略も立てられない国に残って資産をむしり取られるくらいなら、海外に飛び出したほうがいい」

実際、中島さんのように考える日本の富裕層は少なくない。最近では大手建設会社・大東建託の多田一族や、光学機器メーカー・HOYAの山中一族などが、資産をシンガポールに移している。

富裕層のシンガポール移住を手助けする弁護士事務所の関係者は語る。

「今までも日本の富裕層は高率の相続税に悩まされてきました。それでも『自分が商売で成功できたのは国のおかげ』という意識がどこかにあった。しかし、長期的な国の凋落が目に見えており、シンガポールのような魅力的な租税回避地がアジアに存在する以上、彼らを国内にとどめておくのは難しい状況です」

富める者は国を出て、税金すら払わない。このような富裕層の特権階級化は、世界的な傾向だ。カナダのジャーナリストで、世界の大富豪たちの動静に詳しいクリスティア・フリーランドは著書『グローバル・スーパーリッチ』(邦訳:早川書房刊)のなかで「スーパーエリート階級が、経済力とともに政治力を高めている」と断言している。

年間の学費が300万円以上もするようなスイスや英国の寄宿学校を出て、米国の大学で経営学を学び、スイスのダボス会議や、モナコ・グランプリ、英ウィンブルドンのテニス大会といった派手なイベントに必ず顔を出す。それでいて資産は租税回避地を利用して器用に運用する—そんな「新しい種族」が日本でも生まれつつある。

では、前出の中島さんもそんなエリートに交じって、不満のない生活を送っているのだろうか—そう聞くと、中島さんはちょっと顔を曇らせて答えた。

「日本にいたときは、自分が金持ちだという意識はゆるぎないものでした。ところが、シンガポールに来てみるとどうも様子が違う。娘の同級生の親たちは、ヘッジファンドや投資銀行で荒稼ぎしている人たちばかりなのです。子供の誕生会にバンドやサーカスを呼ぶ人もいて、私たちの娘なんかは『うちは貧乏なんだよね?』と聞いてくる始末。先が思いやられます」

新しい世界が広がれば、そのぶん新しい現実を知る。そして、その現実は必ずしも甘いものではない。

「世界中から富裕層が集まるので、シンガポールの賃料はうなぎ登りです。東京の一等地よりも価格が高いのに、工事のレベルや水回りの品質は日本のそれよりはるかに下。ほとんどすべての物資を輸入に頼っているので、物価も高い。

いくら安全で住み心地がいいといっても、東京に比べたら食事やサービスの質、文化レベルも圧倒的に劣っている。結局は価値観の問題になると思いますが、わずか数十年のあいだに作り上げられた新興都市に暮らし続けるのは、味気ないものですよ」(シンガポールに暮らす日本人駐在員)

日本を捨ててまで、守りたいものがある—それが故国で稼いで得た財産だとしたら、どこかで疚しさを持ちながら生きる部分もあるだろう。だが、そんな甘い考えでは、すぐに取り残されてしまう。それが中島さんたちが暮らすスーパーエリートの世界なのだ。

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