格差はいかにして魂をむしばむか?『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より

2014年04月01日(火) リチャード・ウィルキンソン,ケイト・ピケット

リチャード・ウィルキンソン,ケイト・ピケットThe New York Times

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社会の下層部でうつ病が多いのは確かだが、(それだけでなく)すべての階層に見られるのだ。なぜなら、敗北感や失敗感と無縁な人は少ないからだ。同様に、どの階層でもナルシストになったり支配力を求めたりする人はいる。もっとも、実際に、地位の高さは非倫理的行動やナルシスト(自己中心)的行動との相関が高いことを、やはりバークレー校の心理学者であるポール・ピフは示している。

ピフ氏は、高級車を運転している人は、そうでない人と比べて、歩行者やほかの車に道を譲ることが少ないことを明らかにしている。また、地位が高い人は、子ども用だと言われたお菓子を食べてしまうことがそれ以外の人よりも多かった。さらに彼らは、一般レベルの人と比べて権利意識が強く、寛大さに欠ける傾向が見られた。

アメリカでは格差の拡大に連動してナルシスト率が急上昇

では、拡大しつつある格差は、これらと、どのように関連するのだろうか。貧富の差の拡大がもたらす重要なインパクトのひとつは、支配と従属および優越感と劣等感の問題が増強されることだ。トロント大学のロバート・アンダーセンとジョシュ・カーチスの2人の社会学者が明らかにしたところによると、自分の所得と自分が属していると感じる社会階層の間には常に何らかの関連があり所得格差が大きい社会では、この関連性がより密接になるという。

格差は問題を増強させるだけでなく、それを拡大させる。ダブリンの研究者たちが31カ国、34,000人を対象に行った最近の調査では、所得格差の大きい国では、その他の国々と比べ、地位に不安をもつ者が、社会のすべての階層において、より多くいることが分かった。別の国際研究では、特に2011年から以後、より不平等な社会ではそうでない社会と比べて、自己増強または自己拡大、すなわち自分を実際以上の存在として認識する傾向がより頻繁に見られるとの結果が明らかにされている。

アメリカでは心理学研究者たちが、ナルシスト的人格指標の標準的な学術ツールを使って測定したナルシスト率が、1980年代末から急上昇していることを明らかにしている。これは、格差が拡大したのと期を同じくしているようだ。

これらのデータはいずれも、物質的状況の差が拡大することで、社会的距離が広がるのに伴い、優越感と劣等感が増大することを示している。つまり、格差が広がると、すべての人が「イメージ管理」や、自分が他人にどう見られているかということに対して神経過敏になるわけだ。

人間は誰でも、無意識のうちに人とうまくやる方法や社会的絆を築く方法を知っているものだ。しかし同時に、地位争いに関わる方法、すなわち偉ぶったり、自分のことを実際よりも良く話したりするやり方も知っている。私たちは、これら相反する社会的戦略をほとんど毎日のように使って暮らしている。しかし重要な点は、格差が、そのバランスを変えてしまうということだ。

格差の大きい社会では、私たちはあまり良い人ではなくなってしまうという結論は避けられない。実際、私たちはあまり良い人ではなく、幸せでもない。社会階層のどこにいても、格差が広がれば地位への不安が倍増し、精神衛生が損なわれ、人格がゆがめられることになるのだ。

(文:リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット/翻訳:松村保孝)
現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』vol070
(2014年3月21日配信)より

リチャード・ウイルキンソン&ケイト・ピケット---英国にあるシンクタンク「Equality Trust」の共同創設者。共著に『平等社会―経済成長に代わる、次の目標』(東洋経済新報社)がある。
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