The New York Times

格差はいかにして魂をむしばむか?

『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より

2014年04月01日(火) リチャード・ウィルキンソン,ケイト・ピケット
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〔PHOTO〕gettyimages

格差が大きい国の精神疾患者数はそうでない国の3倍

格差が人をコニュニティから遠ざけ、他人を信用しづらくさせるといった弊害をもたらすことは広く知られている。その理由のひとつは、自分の地位に対する不安により、他人の評価をさらに気にするようになるからだ。各国の膨大なデータを比較できるようになったいま、格差は社会に対立を生み、腐食を促すという、直感的に分かるようなことだけでなく、心理にもダメージを与えることが明らかになっている。

私たちは外面的な豊かさと内面的な価値を同一視する傾向がある。それは、優位性と従属性、優越感と劣等感といった深層心理に影響を及ぼし、互いの認識や接し方を左右する。

数年前にわれわれは、貧富の差が大きい国とそうでない国を比べ、先進国では重度、軽度の精神疾患者数が(格差によって)3倍にもなるという証拠を出版し明らかにした。つまりアメリカでは、うつ病や不安神経症の問題を抱える人が、日本やドイツの3倍も多くいるということだ。

これは、病気に対する認識や定義、または治療方法の違いによるものではない。WHO(世界保健機関)が、精神疾患比率の国際比較をするために、各国の人たちに気分、疲労感、精神的動揺、集中度、睡眠パターン、自信などについて尋ねたのだ。これらは、精神疾患の優れた指標となることが分かっている。

新しい研究でも、われわれが見つけたパターンが確認されている。そのうちの1つはアメリカの50州を対象にしたもので、年齢、所得、学歴の違いを考慮したうえで、うつ病は所得格差の大きい州に多く見られることを明らかにした。26ヵ国で行った100の調査から得たデータを統合した別の研究では、格差の大きい国では、格差の小さい国と比べて統合失調症が3倍も多く見られることが判明した。

一体、何が起こっているのだろう?

社会階層への従属意識が精神疾患を引き起こす

カリフォルニア大学バークレー校の心理学者、シェリ L. ジョンソンとそのグループが、2012年に発表した研究の中で、生物的、行動的、そして自己申告のデータから得た膨大な証拠を検討した結果、広い範囲にわたる精神障害は「支配行動システム」に起因する可能性があると結論づけた。

進化によって心理をつかさどるようになった脳組織のこの部分は、ほとんどの哺乳類にあり、階層や力に基づく社会的ランキングを認識したり、それに反応したりすることを可能にする。脳の画像を調べた研究では、脳には社会ランクを専用に処理する特定領域と神経メカニズムがあることが判明している。

ジョンソン氏は、マニア(そう病)やナルシシズム(自己中心主義)といった精神医学的な症状は、地位や支配力を得ようとすることと関係しており、一方、不安やうつ病などの精神障害は、従属体験に対する反応を含む可能性があるとしている。さらに、社会階層に対処しなければならないというプレッシャーが、対人不適応の人格障害や双極性障害などの原因となる可能性も示唆している。

もし精神障害が支配や従属と関係しているのであれば、ナルシシズムなどの障害は社会階層の上層部で、うつ病などは下層部でより頻繁に見られると推測する向きもあるだろう。しかし、全体像はもっと複雑だ。

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