雑誌
第3部 自分の人生なんだから共倒れになる前に捨てなさい
大特集 みんな悩んでいる「老いた親」の捨て方
〔PHOTO〕gettyimages

「なぜ私は親を施設に入れるという決断ができなかったのか。いまとなっては後悔しかありません。60歳で定年してから5年あまり、母の介護をしてきました。介護費用で貯金が底をついただけでなく、今後の人生を楽しむ気力まで失せてしまった。私は母のために、たった一度の自分の老後まで犠牲にしたのです」

そう語るのは、88歳の母親を抱える武井伸二郎さん(仮名/65歳)だ。妻を早くに亡くした武井さんは現在、一人で老母の介護に明け暮れている。

「母にアルツハイマーの症状が出始めたのはいまから5年ほど前。自慢だった料理の味がおかしくなり、食べたのに『まだご飯を食べていない』と言い出すようになりました。

一番ショックだったのは、まともにトイレに行けなくなったこと。オムツをはかせても、すぐに自分で脱いでしまう。挙げ句の果てに、排泄物までいじり始める。しっかり者だった母のその姿に、私は涙が止まりませんでした」

武井さんは電気設備工として働き、二人の娘を育て、大学まで出させた。定年したとき、貯金はさほど多く残っていなかった。それでも武井さんは「二人の娘にも家庭があるので、カネの無心はできない」という。

あのとき捨てておけば

生活費と介護にかかる費用は、「雀の涙」程度の国民年金の他、宅配便の仕分けとコンビニ店員を掛け持ちでやっているアルバイトの収入で、何とかやりくりしている。

「本来なら母は、特別養護老人ホームに入居させるべきだと思います。そうすれば介護費もかなり抑えられますからね。でも母は、まだ頭がはっきりしていたとき『最期を老人ホームで迎えるのは絶対に嫌だ』と頑なに言っていた。それを考えると、いまさら入居させることが、実の子としてはどうしてもできないんです。ヘルパーさんに母を任せてパートに出ている時間だけ、精神的には休めます。ただそのヘルパーさんも、母の『排泄物いじり』を見て、いい顔はしなくなりました