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企業大研究カリスマ経営者が消えたらあの会社はどうなってしまうのか?ひとりの天才に支えられた組織はこんなにモロい
セブン&アイ・鈴木敏文 ソフトバンク・孫正義 ユニクロ・柳井正 スズキ・鈴木修
昨年10月、柳井氏は「65歳で社長引退」の発言を撤回した〔PHOTO〕gettyimages

中内㓛のダイエー、井植敏の三洋電機、伊藤淳二のカネボウ……。経営者の名が形容詞につく企業の「その後」はだいたい暗い。経営者の最後の仕事は後釜選び。間違えた会社はあっけなく死に至る。

集団指導体制はダメ

ヒーロー映画の結末は決まって、颯爽と去って行く主人公の後ろ姿だ。思いもよらない必殺技を繰り出して、バッタバッタと敵をなぎ倒す。そして平和と繁栄の到来に沸く群衆の中に、ヒーローはもういない。

企業に繁栄をもたらし、強烈なリーダーシップで成長を牽引する経営者も同じように英雄扱いを受け、社内外から喝采を浴びる。ただ映画と現実は大きく違って、経営者は去り際を間違える。会長職に居座って院政を敷いたり、人事権を掌握して退いた後も権勢をふるったり……。

では、「彼ら」の場合はどうだろうか。セブン&アイ・ホールディングス会長兼最高経営責任者(CEO)の鈴木敏文、ファーストリテイリング(ユニクロ)会長兼社長の柳井正、ソフトバンク社長の孫正義、スズキ会長兼社長の鈴木修各氏。いずれも現代のカリスマ経営者と称される彼らが消えた時、会社は輝きを維持できるだろうか。

この問題をいま最も切実に考えているのは、今年1月で84歳になった鈴木修氏かもしれない。'58年に2代目社長の鈴木俊三氏の娘婿となり、鈴木自動車工業(当時)に入社。'78年に48歳の若さで社長に就任すると、当時3200億円程だった売上高を約30年で10倍近くにまで拡大させた、文字通りのカリスマ経営者だ。

元中小企業庁長官で、通産省(現・経済産業省)の自動車課長時代から鈴木修氏と親交がある中澤忠義氏が言う。

「いまでも印象に残っているのが、スズキが'90年から進出しているハンガリーで問題が発生した際の彼の対応でした。当時スズキはハンガリー経由で欧州各国にクルマを輸出していましたが、スズキが現地での部品調達率を60%以上にするという要件を満たしていないと異議申し立てをされた。

このとき修社長は真っ先に首都ブダペストに飛び、みずからハンガリーの関係大臣たちと折衝。それでも相手が納得しないと、修社長は現地のスズキの工場から部品をトラックに乗せてハンガリーの財務省に運び込んだのです。そしてまだ油のついている部品を官庁の床に勝手に並べ、通訳も介さないで『これだけハンガリー製の部品を使っているんだぞ』と訴えた。そんな破天荒な経営者を見たことがないのでしょう。迫力に押されて政府側は異議申し立てを撤回しました」

同社の売上高の6割ほどを占める海外事業は、こうした鈴木修氏の大胆な決断力、行動力に支えられてきた。鈴木修「後」の経営を考えた時に真っ先に懸念されるのは、ワンマン経営ならではのその強力な推進力が失われることだ。

元スズキ専務の岡部武尚氏はこう指摘する。

「オヤジ(鈴木修氏のこと)が工場に視察に来ると、社員が普段の不満を直談判にきて、それが理にかなっていれば『じゃあ、やれよ』とすぐに決めてくれる。本部で社員が企画を持って行っても、1度目、2度目は『ダメだ』と言って跳ね返されるけど、3度目に行くと企画書も見ないで『やってみろ』となる。そこまであきらめないでやりたいと思っていることならやらせてみようというオヤジの心意気があるから、社員もモチベーションが上がる。

オヤジは地元・浜松の取引先の社員の家族構成まで頭に入っていて、『息子は結婚したのか』『そろそろ息子が就職じゃないか』と語りかける。だから、取引先企業もいつの間にかオヤジのファンになってしまう」

鈴木修氏は「ワンマンこそがいい経営」と公言する一方で、こうしたきめ細かな配慮も欠かさない。そのため、「修さんのためなら」と意気に感じた社内外の人たちが猛烈に働き、これがスズキを支える陰の力になっているのだ。

大胆さときめ細かさを兼ね備えるカリスマ経営者。その後継を務めるのは並のことではない。そのため、「ワンマンの後は集団指導体制というのが歴史の必然」というのが鈴木修氏の持論で、'11年から、田村実、本田治、鈴木俊宏、原山保人各氏による4人の副社長体制をとっている。この中から次期社長が選ばれ、集団指導体制に移る公算が大きい。

「ただ、カリスマ経営者が去った後に合議制的な経営を志向してうまくいかないケースは多い。カリスマ経営というのは良くも悪くもその経営者の独断で会社が動くため、会社全体が経営者に頼る傾向が強くなってしまうからです。自分たちで考えて行動するということに慣れていないにもかかわらず、今日から自分で考えて行動しなさいと言われてもできないのです」(慶應大学ビジネス・スクール准教授の齋藤卓爾氏)

スズキの元役員も言う。

「今後はオヤジの長男の鈴木俊宏氏が社長に立って、田村氏などの役員が支えるというのがあるべき姿でしょう。俊宏氏はオヤジについて海外を飛び回ったし、その言葉、器、決断を見てきている。オヤジがいなくなればもっと自由に動けるでしょう。あとはオヤジがやってきたような、トップの決断ができるかどうかだ」

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