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オバマも安倍も吹っ飛ばされた プーチンが「世界経済」の支配者になった
〔PHOTO〕gettyimages

屈強で、狡猾な男であることは誰もが知っていた。しかし、こうも強引かつ鮮やかなやり方で、世界の行く末を手中に収めてしまうとは。私たちは、彼のことを見くびっていたのかもしれない。

もう誰にも止められない

ウクライナ南東部、黒海に突き出たクリミア半島。その最南端・セヴァストポリの岸壁には、無数の弾痕が刻まれている。ここでロシアは、19世紀にはオスマン帝国と、20世紀にはナチスドイツと死闘を演じた。

21世紀。世界は三たび、固唾を呑んでこの地を見守っている。

ロシアの最高権力の座に就いてはや14年。プーチン大統領は今、ワイングラスをゆったりともてあそぶかのように、黒海を手のひらに収める。61歳にしてなお逞しい背中を玉座にあずけ、灰色の瞳で見据えるのはウクライナだけではない。慌てふためくEU諸国、大西洋の向こう側で、何もできずにいるかつての宿敵・アメリカ、そして茫然とするばかりの日本—。

世界の命運は彼に握られた。

「今回の騒乱は、プーチンによる最高難度の応用問題と言えます。あまりに多くの要素が、複雑に絡み合っている。日本では安倍総理をはじめ、官邸も外務省も、事態の全体像を総合し、有効な対策を立てることができていないようです」

元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏はそう話す。

ウクライナ国内に完全武装の兵士を1万6000人も送り込みながら、「あれはロシア軍ではない」と言い放つプーチン。ロシア上院が派兵を全会一致で承認した直後の3月1日、アメリカのオバマ大統領は青いシャツの袖をまくり、大統領執務室でクレムリンへの直通ダイヤルを回した。

だが1時間半後、受話器はため息とともに置かれた。電話の相手は一歩も引かなかった。

「ここ数年、シリアやイランの独裁政権に対して、アメリカ政府は『国際法違反だ』などと大げさな声明を出しながら、有効な手を全く打てませんでした。

今回も、オバマはロシアへの経済制裁に言及したものの、プーチンと真っ向から衝突するほどの制裁を実行すれば、アメリカ経済だってただでは済まない。現在の不安定なオバマ政権に、そうした犠牲を引き受ける意志があるかどうか」(ハーバード大学政治学部客員教授のオーレル・ブラウン氏)

EU諸国の首脳も、4日以降次々にロシア側と接触。かねてからプーチンと親しいドイツのメルケル首相をはじめ、兵を引くよう総がかりで説得にあたっている。ウクライナのデフォルトを防ぐとともに、プーチンへ圧力をかけるため、EUはウクライナ新政権に1兆5000億円もの短期支援を行うことも決めた。

しかし、プーチンはまったく意に介さない。筑波大学国際総合学類長で、ロシア政治が専門の中村逸郎教授が言う。

「欧米各国は、6月にソチで開かれる予定のG8サミットを欠席する可能性を表明しました。これに対してプーチンは『そんなにイヤだったら、来るな!』と吐き捨てています。日本の新聞は丁寧な言葉で報じていますが、プーチンの言葉遣いに忠実に訳すとこうなる」

ロシアからEUへ、EU全需要の3分の1にあたる年間1600億ドルもの天然ガスを送るパイプラインは、ほとんどがウクライナを通っている。EUの「首根っこ」を押さえているプーチンからすれば、いざとなったら、ほんの少し指に力を込めるだけでよい。エネルギー供給のもとを断たれたEU経済圏は、あっという間に危機に陥るのだから。

市場も翻弄されている。

ニューヨーク・ロンドン・東京・上海・モスクワの各株式市場は、3月第一週を過ぎてもなお不安定だ。騒乱を受け、3日にはニューヨークで前週末比150ドル以上、東京で400円近くも大幅に下げた。と思えば、プーチンが4日「ウクライナでの武力行使は最後の手段だ」と述べただけで、「危機は遠のいた」との見方から一転して大幅反発。その後、クリミア自治共和国のロシア編入をめぐる決議などを受けて、先の見えない値動きが続いている。

株式評論家の植木靖男氏はこう懸念する。

「カネというものは臆病ですから、世界情勢が不安定になると安全な場所へ逃げようとする習性がある。世界の投資家がリスク回避のために資金を株式市場から引き揚げるようなことになれば、世界同時株安の引き金となり、世界経済は再び停滞してしまうでしょう。

紛争が長期化した場合、投資資金は強い通貨であるドルと円に流れる。年明け以降、新興国から流出した資金の一部が円買いに流れ、円高に振れ始めています。今後、この動きがいっそう加速する可能性がある」

事実、すでに株式市場に流れるカネの量は大きく減っている。4日には東証1部の売買代金総額が、昨年11月以来3ヵ月半ぶりに1兆8000億円を割った。

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