ウクライナをめぐるロシアとアメリカの対立は「毒サソリ」と「毒ヘビ」の戦い。これに距離をおく日本の外交はよくやっている

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol032--「くにまるジャパン発言録」より

伊藤: 共同通信によりますと、ロシアがウクライナ南部クリミア半島の実効支配を強めていることに対し、アメリカのオバマ大統領は6日、ロシアとウクライナの一部の当局者と組織を標的にした制裁を発動する大統領令に署名しました。アメリカへの渡航禁止やアメリカにある資産の一部を凍結するといった措置で、ウクライナ危機をめぐってアメリカが制裁を発動するのは、先月下旬の政変後初めてです。また、ロシアのラブロフ外相は6日、アメリカのケリー国務長官とローマで会談しましたが、「合意に至らなかった」と述べ、今回の制裁を「脅迫だ」と批判しました。

一方、クリミア自治共和国の議会に当たる「最高会議」は6日、ロシアに編入を求める方針を決議しました。今月16日に住民投票を行って、編入について追認を受けることも決め、ロシアも編入を見越した動きを見せました。これに対し、アメリカのオバマ大統領は6日、ウクライナ南部のクリミア自治共和国について、ロシアへの編入に向け一方的に分離することを認めない考えを表明しました。オバマ大統領はホワイトハウスで声明を読み上げ、クリミア自治共和国が計画しているロシアへの編入の是非を問う住民投票について、「ウクライナ憲法と国際法に違反する」と述べました。

邦丸: クリミア半島に今、ロシア軍が入ってきたということについて、佐藤さんは雑誌などさまざまなメディアで発信していらっしゃいますが、ことはそう簡単ではないということですね。

佐藤: そうですね。簡単なアナロジーでいうと、「毒サソリ」と「毒ヘビ」が戦いをしているわけです。それに対してオバマ大統領は、毒サソリの味方をしているわけですね。日本は、毒サソリも毒ヘビもロクなもんじゃないから距離を置かせていただこうという立場をとっているわけで、そういう安倍政権の判断は現時点において100%正しいんです。(略)これは日本の情報収集、分析のレベルの高さと判断の冷静さを示すもので、今回、日本の外交は非常によくやっています。いちばんよくできているのが日本で、次がドイツです。

(略)今回のポイントになるのは、西ウクライナのガリツィア地方というところなんです。(略)この地方は、1945年にソ連軍が入ってくるまで、ソ連領になったことは一度もないんです。北方領土と同じですね。もともと、オーストリア・ハンガリー帝国の半島なんです。

そもそもウクライナというのは、ガリツィアのオーストリア領のウクライナとロシア領のウクライナを併せて、「ウクライナ」と呼んでいたんです。このウクライナの全域でウクライナ語が使われていたんですが、19世紀に、ロシアではウクライナ語をしゃべってはいけない、ウクライナ語の雑誌や新聞を出してはいけないという政策を打ち出して、これが100年以上も続いたんです。ですから、ロシアに住んでいるウクライナ人は、ウクライナ語を忘れてしまった。

ところが、ガリツィア地方では、オーストリア・ハンガリー帝国のハプスブルク家が多言語政策を採っていましたから、ウクライナ語の本、雑誌もあるし、リボフ大学でウクライナ語の教育をやったんですね。ナショナリズムの核は、あそこ(ガリツィア地方)なんです。そこに、1945年にソ連が入ってきた。面倒臭いことに、ガリツィア地方は宗教が違う。カトリックなんです。

邦丸: カトリックとロシア正教は違うんですね。

佐藤: 1054年に分裂しているんです。われわれの目にも違いがわかりやすいところで言うと、聖職者が袈裟を被っているのはどちらも同じなんです。しかし、ロシア正教では、下級のノンキャリアのお坊さんは結婚しているんです。一方、カトリックでは、お坊さんは全員、独身なんです。こういう大きな違いがあります。

(略)ところが、ガリツィア地方の西ウクライナのお坊さんは、カトリックなのに結婚しているんです。これは特別な例外として、儀式はロシア正教のやり方に則ってもいいけれど、ローマ法王をいちばん偉いと認めなさいということで、結婚も許されている。この人たちをカトリックのなかでも独自のユニエイト教会といいます。

邦丸: ユニエイト教会?

佐藤: 正確には「東方典礼カトリック教会」といいます。ところが、スターリンがこの人たちを無理やり、ロシア正教に合同させてしまったんです。

邦丸: ははあ。

佐藤: もうひとつ面倒臭い問題があって、第二次世界大戦ではウクライナ人は、ソ連とドイツのどちらについたと思いますか?

邦丸: ナチス側についた人たちがいるんですよね。

佐藤: はい。30万人がナチス側、120万人がソ連側だったんです。このナチス側の連中というのは、ユダヤ人虐殺をめちゃくちゃやっているんです。ポーランド人、チェコ人を殺した。西ウクライナではこの勢力が強いんですよ。この人たちは、ソ連に占領された(1946年)後も1955年ぐらいまで、武装反ソ闘争をやっていたんです。

そしてソ連に支配されることを潔しとせずに亡命した人たちが、カナダに大勢いるんです。今、カナダにはウクライナ人が120万人もいます。ですから今回、カナダがソ連に対してものすごく強硬な姿勢を示しているのは、ウクライナ・ロビーが強いからなんです。

カナダでいちばん話されている言語は英語、二番目に多いのがフランス語、三番目がウクライナ語です。

(略)1980年代にゴルバチョフがペレストロイカ(意味は「再編」。ゴルバチョフ政権による改革を指す)をやっているときに、カナダのウクライナ人たちが西ウクライナのガリツィア地方の人たちにおカネを送って、それを原資に民族運動が起こった。ただ、このなかには反ユダヤ主義者、ウクライナ民族至上主義者──ウクライナ民族以外は劣等人種だと主張している──といった恐ろしい連中がいるんです。

ロシアの新聞にはこういった事情が書かれているんだけれど、アメリカや西側諸国では、これをロシアのプロパガンダだと、ロシアがウソをついているに決まっていると思っている。でも、これはウソではないんです。本当に恐ろしい連中がいるんです。

(略)

邦丸・伊藤:うーん。

佐藤: 東の方のウクライナというのは、自分たちがロシア人なのかウクライナ人なのか、よくわかっていないんです。普段はロシア語をしゃべっているロシア正教の人たちですが、ただ、西ウクライナも含めて自分たちの仲間なんだと思っているんです。そこには、ロシアの軍事工場や宇宙工場があるんです。もし、東ウクライナがEUに入って、さらにNATO(北大西洋条約機構)に入るとなると、ロシアの軍事機密が全部、洩れちゃう。

(略)今回、東ウクライナで1日だけでしたが権力を取った連中が、ロシア語が公用語になっていた制度を廃止するとした。それでデモが起きたでしょ。日本から見れば、なんで言葉のことなんかでデモが起きるのかなと思うんですが、これは「米びつ」の話になるからなんです。

(略)東ウクライナの公務員は、みんなロシア語をしゃべりますから、ウクライナ語はできないんです。ということは、ロシア語が公用語でなくなり、ウクライナ語が公用語になったら、全員クビですよ。公用語ができないと、公務員にはなれないですから。

民間企業においても、管理部門は全員、ウクライナ語が義務付けられることになりますから、全員クビになる。オレたちは職を失う、糧を失う。要するに米びつ」に直結する話だということがわかっているから、2万人も3万人も街頭に繰り出してくるんです。(略)

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