【第5回】第二章 防衛費拡大で日本経済大復活(前編)---国民所得を確実にあげる
~需要拡大、民間投資も拡大する、
巨大「成長分野」は「安全保障」だ!~

【第4回】はこちらをご覧ください。

所得倍増の意味と意義

さて、本連載のタイトルは「第二次所得倍増計画」であるが、所得とは国民経済というマクロ的視点では「名目GDP」を意味している。2013年の名目GDP(速報値)は478.4兆円である。所得倍増計画とは、文字通り国民の所得を2倍に拡大し、名目GDP1,000兆円を目指す計画になる。

とはいえ、名目GDPが拡大すればそれで話が済むかといえば、もちろんそんなことはない。第一章で取り上げた通り、正規雇用ではなく非正規雇用の労働者が増え続けるタイプの名目GDPの成長は、我が国の国民経済にとって好ましいとは言えない。

実際のところ、派遣労働に代表される非正規雇用が増え続け、正規社員との格差が拡大する形で名目GDPを2倍にすることは、現在の日本にとってはまず不可能だ。発展途上国ならともかく、すでに成長を遂げ、国民所得の水準が世界の中でも相対的に高い方に位置する我が国が、さらに所得を倍増させようというのだから。格差拡大型ではなく、中間層を分厚くする形で所得を拡大させなければ、経済成長の持続力はすぐに失われてしまう。すなわち、継続的に経済を成長させることができない。

シカゴ学派の経済学者の教祖であるミルトン・フリードマンが提唱した「仮説」の一つに、恒常所得仮説がある。恒常所得仮説とは、労働者の固定給与など、現在から将来にかけて確実に得られる見込みである恒常所得によって、消費活動が左右されるという仮説だ。

自動車や住宅など、比較的価格が高い財を考えてみればわかる。自動車や住宅を「ローン」を組んで購入する人は、間違いなく「将来も所得を得られる」という見込みに基づき消費活動を決定している。

フリードマンによると、恒常所得に比べ、不定期に得る「可能性がある」変動所得の場合、消費活動への影響は限定的とのことである。

実は、フリードマンの恒常所得仮説は、ケインズの、

「消費者の消費行動は現在所得により決まる」

という考え方に対するカウンターであった。ケインズの仮説が正しい場合、消費を拡大するためには「現在の所得」を増やせばいいことになる。すなわち、政府が有効需要になるように支出をすれば、現在の「誰か」の所得が増え、結果的に民間の消費が拡大し、経済成長が実現できる。

それに対し、フリードマンは、消費を恒常所得と変動所得に分離し、

「現在ではなく、恒常的に得られるであろう所得により、消費は決定される」

と、提唱したわけだ。

現在の日本国民は、長引くデフレにより「現在の所得」が減少している。結果的に、国民は消費を増やさない。

日本国民が消費を拡大しようとしないのは、人口減少、少子化等が理由ではなく、単に現在の所得が小さいためだ。消費を増やしたくても「金がない」というのが、98年以降の日本国民の実情なのである。そして、ある国民が所得不足を理由に消費を縮小すると、別の国民の所得が小さくなってしまうというのは、これまでに説明してきた通りだ。

例えば、日本政府が定額給付金等の政策により、国民に所得移転を実施した場合、我が国の消費は増えるだろうか。間違いなく、一時的には増えるだろう。とはいえ、それが継続的な消費拡大に結び付くかどうかを問われれば、「不明である」としか回答のしようがない。一時的に増えた所得を使い切った国民は、さらに自ら稼ぎ出した所得から消費を増やしてくれるだろうか。

結局のところ、民間の消費を中心に経済成長路線を進むためには、フリードマンのいう恒常所得が増える「見込み」がなければならないのだ。すなわち、13年の日本企業の「一時金(ボーナス等)増額」は、民間消費中心の経済成長路線に戻るには力不足だったのである。一時金ではなく、恒常所得である基本給が増え続けてこそ、国民の消費活動は最大化される。

そういう意味で、安倍晋三政権が大手企業に「ベースアップ(基本給の引き上げ)」を要請し、一部企業が応えようとしていることは、好ましい傾向だ。とはいえ、不思議なことに安倍政権は恒常所得の拡大を進めつつ、同時に雇用の流動性強化を実施し、正規雇用よりも非正規雇用を増やす政策「も」採用しようとしている。

恒常所得に着目した場合、非正規雇用、派遣労働の拡大は、国民の消費拡大のボトルネックになることが、容易に推測できる。派遣労働の多くは短期雇用(3年程度の契約)であり、しかも企業の売上が減少した場合、即座に契約を打ち切られる。

雇用が不安定な国民が、消費を安定的に増やすなどということはあり得ない。そもそも、派遣労働では住宅や自動車購入に際したローンを組むことすらできないだろう。

というわけで、我が国が継続的に国民の消費、投資を拡大し、内需中心の所得倍増を目指す場合、必然的に「非正規雇用の正規雇用化」と「恒常所得の拡大」を目指さなければならないのである。

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