官々愕々「建設バブル」の本当の問題
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2013年の大手建設会社の受注額が、前年比で21%も増えた。東北復興需要の上に、安倍政権になってから、アベノミクス第二の矢として、公共事業の壮大なバラマキが始まった。「国土強靭化」や「消費税対策」という大義名分も加わり、昨年来、日本中が建設バブルに沸いている。

しかし、建設関連業界の状況はといえば、人手不足による人件費の高騰、供給力不足と円安に伴う資材費の高騰、輸送能力の限界などが加わり、工事の遅れや入札不調が続出している。「ぼろ儲け」と言われた建設業界でも、思わぬコストアップで「増収だが減益」という企業も出て来た。保育園の建設が遅れて働く母親たちを直撃などという「被害」も出ている。

3・11から3年が経って、この事態が東北の復興の足を引っ張っていることもあらためて指摘された。五輪特需が加われば、東北の状況はさらに深刻化するだろう。

しかし、安倍政権の公共事業偏重の政策は止まりそうにない。そこには、安倍政権の大誤算がある。アベノミクス実施により、円安による輸出増やそれに伴う大規模な設備投資の復活で、消費増税までに景気の牽引役が現れると予想していたのに、輸出数量は増えず、設備投資も冴えない。一方、肝心の成長戦略も手付かずだ。当初のシナリオは完全に崩れ、今や公共事業のバラマキしか手がないのだ。

本来は、どうすべきなのか。民間の対応を見れば答えはわかる。

3月9日付日経新聞は、「建設費高騰で出店抑制 イオン、2~3割減」という大見出しで1面を飾った。民間企業は、適正な期間で投資回収が可能かどうかを精査して新規投資を行う。建設コストが高騰すれば、当然、投資規模は縮小される。その結果、全体の需要が落ちて、バブルも終わり、建設コストも下がる。それを見て、企業の投資もまた増えるという循環になるはずだ。

では、政府はどうか。

官僚達は、一度手にした公共事業の利権は絶対に手放さない。「工事発注抑制」という文字は彼らの辞書にはないのだ。彼らの答えは単純明快。単価のアップである。同じ工事をはるかに高いコストで実施するのだ。もちろん、財源は国債、将来の税金である。

しかし、これは、まったく本末転倒の考えだ。景気対策として公共事業を増やすのは、工事量を増やして景気を良くするのが目的である。しかし、すでに建設業界の供給力を上回る工事量がある。'13年の受注量がピークで、'14年はこれを上回ることは困難だとも言われている。つまり、これ以上公共事業の執行を増やそうとしても、価格を上げるだけ。景気対策にならないばかりか、税金の無駄遣いになるだけなのだ。

さらに、重要な問題がある。今無理に増やしている公共事業には無駄なものが多い。お蔵入りとなっていた事業が、次々に復活している。その維持更新コストなどは将来世代の重い負担となる。

最も深刻なのは、民間の設備投資が建設コスト高騰のあおりで抑制され、将来の成長の芽を摘んでしまうことだ。官が民の成長を止めているのである。

安倍総理は、今国会を「好循環実現国会」と銘打ったが、現実には、アベノミクスは完全に公共事業中毒の悪循環経済に陥っている。

政治の重要な機能の一つに、政策の優先順位決定機能がある。今こそ、それを正しく発揮すべきだ。東北復興事業を除いて、公共事業の発注を抑えればよい。

その結果、東北の復興が加速し、しかも、民間投資の復活により将来の成長へとつながる。これこそが、「好循環実現」の道筋だ。

『週刊現代』2014年3月29日号より

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原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。