佐藤優のインテリジェンス・レポート---「露国営ラジオ『ロシアの声』が報じたウクライナ新政権についての論評」、「ウクライナ情勢が日露関係に与える影響」
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol032--インテリジェンス・レポートより

露国営ラジオ『ロシアの声』が報じたウクライナ新政権についての論評

ウクライナ情勢をめぐる日本政府の対応は非常にバランスがよく、首相官邸、外務省の連携もよく取れています。帝国主義的な国際秩序の変化を踏まえた上で、日米同盟、G7との協調を維持しつつ、ロシアとの独自外交を展開しています。

これは北方領土交渉に対する配慮という消極的要因のみならず、ウクライナの新政権が持つ危険性を斎木昭隆(さいき・あきたか)外務事務次官、谷内正太郎(やち・しょうたろう)国家安全局長らがよくわかっているからです。

ネットの一部に、中途半端なウクライナ語の知識と、ウクライナ民族主義者が展開する実証性の低い物語で、あたかもウクライナ情勢の専門家のような顔をして私の言説を非難する人がいますが、私はモスクワに勤務していたときにロシア語だけでなく、ベラルーシ語を3年、ウクライナ語を1年、研修しています。また、ロシア科学アカデミー民族学人類学研究所で、東スラブの民族研究をしています。権威による説得は好みませんが、ウクライナのような日本で専門家が少ない地域の問題については、当該語学の基礎知識もなく、民族学的基礎訓練を受けていない人の言説が想定外の影響を与えることがあるので、要注意です。ウクライナの地名についても、あえてすべてをウクライナ風に表記する必要はありません。「キエフ」を「キイフ」、「リボフ」を「ルボフ」と言い換えることに本質的意味を認めません。

ロシアの制限主権論的なウクライナ政策は弾劾されるべきです。しかし、そのことは、キエフの現政権を手放しで支持するということにはつながりません。

3月4日に露国営ラジオ『ロシアの声』が報じたウクライナの現政権についての論評は、インテリジェンスレポートとして優れているので全文を引用しておきます。

* * *

<「ロシア、ウクライナという課題」

日本の新聞はプーチンのウクライナ政策によって日本の首相は苦しい立場にたたされたと書きたてている。

安倍首相は一方でロシアとの関係拡大に努めているが、その重要性は日本にとっては中国の経済、軍事力の伸長にしたがって増しつつある。その傍らで安倍首相はG7クラブの首脳らに組みし、ソチで実施されるG8サミットの準備会合をボイコットしてしまった。

茫然自失状態にあるのは日本の首相だけではない。一般の市民も同じだ。たとえばVOR(佐藤注:Voice of Russia/ロシアの声)に届けられるリスナーからの手紙では、ロシア政権はついこないだシリアへの軍事介入にあれほどに強硬に反対したのに、なぜ今回はウクライナへの軍部隊派遣の可能性を語るのか、といった問いがぶつけられている。一見パラドックス的に思えるかもしれないが、ここには何の矛盾もない。ロシアが全力を尽くしているのは、いずれの場合も大規模な流血の事態を避けることだ。だが、まず順を追って説明しよう。

ロシアの指導部も、そしてロシア国民の大部分も、シリアとウクライナがかつてのユーゴスラビア、イラク、グルジアないしリビアがそうであったように、自国にとって気に入らない体制を挿げ替えようとするアメリカ合衆国のグローバル政策の犠牲者となったと捉えている。

通常こうした米のグローバル政策は、オレンジ革命などいわゆる「色の革命(Color revolutions)」または「花の革命」といわれる、過去10年間に様々な国で起こされた革命の波を手段に使って実現されてきた。これらのシナリオはおおむね似たり寄ったりで、国民の一部が国の秩序に対して抱く不満を急進主義者が利用し、状況の不安定化や軍事クーデターが図られるというものだ。

西側はこれを民主主義の勝利と高らかに讃えてきた。だがその結果、政権の座につくのは、民主主義者とはとても言い難い親米派の専制者か新興財閥で、国民の利益に全く関心を払わない輩ばかりだった。2004年のグルジアでもウクライナもそうであったし、2011年のリビアも同じだった。だが状況の不安定化をはかり、テロリストらを送り込んでも指導者の転覆が図れないとなると、米国はNATOの力を借り、国際法の基準を無視して、国連の委任状を待たずに介入を図ってきた。これがユーゴスラビアであり、イラクであり、リビアで起こったことだ。

イラクではこれが成功した。そしてシリアでもうまくいくはずだった。シリアでは、民主主義とは正反対の中東諸国体制と米国から資金を得た国際テロリストらによって、内乱が起こされたからだ。だがロシアは、米国主導の西側の軍隊が軍事作戦を展開すれば、シリアは独立国としては崩壊して領土保全を失い、大きな人的被害を蒙ることをよく理解していたため、中国の支援を得て、米国の主張する軍事介入を阻止したのだ。・・・・・・

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol032(2014年3月12日配信)より

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら