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2014年03月20日(木)

『放射能と人体』
細胞・分子レベルからみた放射線被曝
落合栄一郎=著

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「100ミリシーベルト以下の被曝は心配ない」は本当なのか?
たとえ低線量でも、放射能は無視できない。
福島第一原発事故から3年、
今なお続く低線量被曝にどう対応すればいいのか。

 瞬時に高線量の放射線を浴びれば即死する。では、低線量でも長期にわたって被曝したら……? 被爆から約70年を経た現在も、臓器内部から放射線が出続けているという。細菌やウイルス、化学物質に対して免疫システムや解毒作用を備える人体だが、放射能にはどれだけ耐えられるのか。原爆や原発事故、劣化ウラン弾による被曝の調査報告をもとに、放射線の生体への影響を科学的観点から詳細に検証する。

はじめに

 2011年3月11日に発生した東日本大震災による甚大な被害は、驚愕すべきものであったし、あの津波発生時のテレビでの放映画面は、現実のものとは思われないものであった(筆者は海外在住である)。しかし、その後に起こった東京電力福島第一原子力発電所の事故では、「とんでもない事態になった。これはどうしようもなくなるのではないか」と恐怖が襲った。そして、これまで、自分が放射能問題を充分に考えてこなかったことを反省し、新たに、原子力、放射能、その健康への影響を学ぶべく努力を開始した。

 科学者として、これらの問題について、メディアやインターネット等々で議論されているものを見聞きするにつけ、どうやら放射能の本質が正確に理解されていないのではないかという懸念をもちはじめた。本当のことを理解しなければ、問題の本質―原発は是か非か、原発をゼロにすべきか否かを全人類を納得させる仕方で充分に議論できないのではないかと危ぶんだ。

 筆者は、放射能や原子力などについて専門知識をもつ者ではないが、科学的常識から、放射能問題を徹底的に考えてみようとした。その結果の簡略な議論は『原爆と原発―放射能は生命と相容れない』(鹿砦社、2012)で行い、世界に向けては『Hiroshima to Fukushima: Biohazards of Radiation』(Springer, 2013)で発信した。そして今回、日本の人々向けに、放射能の生命に対する影響の問題をさらに詳しく考察してみようと試みたのが本書である。

 あの事故から3年が経過したが、福島第一原発の事故を起こした1~4号炉の現状は、いまだ不明なことが多い。その最大の理由は、原子炉周辺の放射線量が高く、充分な立ち入り検査ができないためである。そのうえ、3基分ものメルトダウンした核燃料の処置という問題は、人類が経験したことのない事象であり、これを放置すれば、そこに含まれる放射性物質の放散を免れない。放射性物質は初期の爆発に伴ったもの以外にも、現在も出続けている。福島の子供たちに甲状腺がんが異常な高率で発生しているし、心臓疾患その他の病気も増加しているようである。そして、こういう情勢は、福島に限らない。影響は拡大しつつあるようである(本文、特に第10章参照)。

 これらの健康障害が放射能によるものかどうか、科学的に立証することは困難である。それには、大規模な疫学調査を必要とする。しかし、たとえ科学的な立証にはいたらなくとも、こうした健康障害が、放射能によるものであるかどうか、どのような障害が起こりうるのか、といった疑問は、放射能の生体への影響を科学的に検討することである程度想像できる。そこで、放射能とはそもそも何か、どうして生体に害を及ぼすのか、などの疑問を科学的に検討してみようというわけである。

 α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)線などの〝高いエネルギーをもつ〟放射線が、いったいどういうもので、どんな原因で出てくるのか、そして、それは生物に代表される地球上の化学物質とどう関わるのか──。このあたりの基本を科学原理に基づいて理解しないと、放射能・健康問題は、充分に理解できない。

 ここで扱う放射線は、放射性物質から出てくる。放射性物質は、自分の寿命(半減期)に従って自然に崩壊し、別なもの(非放射性)になりはするが、それまでは、通常の手段では、人工的に状態を変えたり解毒したりすることはできない。したがって、一度環境に出てしまうと、それを避ける有効な手立ては、放射能の少ないところで生活し、放射能に汚染されていない水や食べ物を食べる以外にない。除染という手段があることにはあるが、放射性物質の分布の仕方から考えて、充分に有効な除染方法は今のところ存在しない。

 現在、かなり汚染されてしまった地球上に生活せざるを得ないあらゆる生き物はどうするか。

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