中日復帰した落合博満監督の名参謀・森繁和ヘッドコーチ。どんな強い組織を作っていくのか?監督との8年間の強い組織作りの秘密は?落合氏推薦、森繁和・著『参謀』

解説・吉見健明(スポーツ・ジャーナリスト)

『参謀』著:森繁和 税抜価格:660円amazonはこちら

この本の原書にあたる『参謀・・落合監督を支えた右腕の「見守る力」』の企画を立ち上げたのは、落合博満監督、そして著者の森繁和さんが中日ドラゴンズを退団した直後の、2011年秋のことだった。それから約5ヵ月後の2012年春、単行本として世に出たとき、落合さんは推薦の辞として、帯に次のような言葉を寄せてくれた。

〈ドラゴンズの8年間で
野球界に信頼できる人間を見つけた。
私が、またユニフォームを着るなら
必ず森繁和を呼ぶ〉

このフレーズの最大のポイントは「呼びたい」ではなく「呼ぶ」と断定調になっているところだと、私は思う。直接交渉した担当編集者からこのフレーズを聞いて、私は「ああ、落合さんと森さんの絆の固さは本物なんだ」と感じ入り、いずれその言葉どおりになるだろうと思った。

これには、それなりの理由がある。

ひとつは、森さんが本書でも記している通り、落合さんは言葉のひとつひとつを人一倍、慎重に選ぶ人物で、曖昧なこと、生半可なことは決して言わないように努めているからだ。それだけに、「呼ぶ」と「呼びたい」では込められている意味がまったく異なってくるのだ。これは私の思い込みではなく、落合さんと担当編集者の間でも、この表現を選ぶにあたって同様のやりとりがあったと聞いている。

もうひとつは、野球記者として四十数年の経験から、プロ野球界には、一度交わした「約束事」はよほどのことがない限り守られなければならないという慣習が、厳として存在することを知っているからだ。一般のファンからすれば意外に思われるかもしれないが、「武士に二言なし」といったような不文律が球界人の間にはある。もちろん、約束事を平気で反故にする例もまま見受けられるが、そんな人間は総じて評判が悪い。野球界はある意味で狭い社会だけに、「あの男は信義を踏みにじる奴だ」という悪評が、すぐさま広まるからだ。

森さんほど実績のあるコーチになれば、他球団からは引く手あまた。普通に考えれば、落合さんが退任した以上、森さんは″再就職”の道を選んで当然であろう。事実、私が取材した範囲だけでも、2012~2013年シーズンの充電期間には、4つの球団(球団名は差し控えるが)からヘッドコーチ就任要請があった。

しかし、前述したように、落合さんは森さんが著した本の帯に「またユニフォームを着るなら、必ず呼ぶ」という言葉を寄せてくれた。そして森さんも、その言葉を快く受け入れていたからこそ、編集部が落合さんのフレーズを使うことに異を唱えなかったのだと思う。つまり、二人の間では、すでに「約束」が交わされていることに他ならないのである。だから私は、森さんにヘッドコーチ要請の話があるようだとの情報に接するたびに、「ならば、誘いをかけた球団に落合監督招聘の動きがあるのか?」と、その一点だけに注目していた。そうした動きが本当にあるなら、「落合氏、○○の新監督に就任!」といったスクープの端緒になる。逆に、落合さんを呼ぶつもりがないなら、森さんは絶対に受けないし、もちろんスクープにもならない。そんな読みがあったのだ。