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佐藤優さんと知り合って10年になる。その間に佐藤さんから送っていただいた本は、たぶん100冊を超えるだろう。多くは、古今東西の名著である。

それらの本から私が受けた刺激と恩恵は計り知れない。だが、残念ながら私の知性では歯が立たぬ難解な本や、分厚すぎて持てあます本がなかにはあった。

2年ほど前に頂戴したフランスの人類学者エマニュエル・トッドの『移民の運命』(石崎晴己・東松秀雄訳、藤原書店刊)もそうだった。欧米諸国の移民の同化について書かれたものだが、何しろ611ページもある。当時の私は本のテーマにもさしたる興味を持てなかったので、そのうち読もうとほったらかしにしておいた(佐藤さん、ごめんなさい)。

しかし昨年、在特会のヘイトスピーチを目の当たりにして心境が変わった。ネトウヨはレイシズム(人種・民族差別)の虜になっている。では、レイシズムとは何か。ネトウヨを突き動かす激しい憎悪の正体は何かというと、さっぱりわからない。

「他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ。敵の神をこそ撃つべきだ。でも、撃つには先ず、敵の神を発見しなければならぬ。ひとは、自分の真の神をよく隠す」

これはフランスの詩人ヴァレリーの呟きらしいがと断って、太宰治が『如是我聞』の冒頭に掲げたフレーズである。相手の論理や感情の核心を理解せずに批判しても意味がないということだろう。

そうだ、ネトウヨの〝神〟を見つけなければ何も始まらぬ。

そのとき頭をよぎったのが『移民の運命』だ。ヒントがあるかもしれないと思って頁をくった。だが、すぐ眠くなる。数日たつと内容を忘れるので、始めから読み直し。そうこうするうち『アンネの日記』連続破損事件が起きた。

ナチスによるホロコーストはレイシズムの極みだ。その犠牲の象徴の『アンネの日記』と関連本を300冊余も破るということは、レイシズムの虜になったナチス崇拝者か、その影響下にある者の仕業だと考えるのが自然だろう。

私は事件を契機に真面目に『移民の運命』を読み始めた。そうしたら、やっぱりヒントが見つかった。いや、ヒントどころか、レイシズムが生まれる構造がわかりやすく解き明かされていた。

それだけではない。私が長いこと抱え込んでいたさまざまな問題(たとえば部落差別はなぜなくならないのかという疑問)に対する答えも書かれていた。なぜもっと早く読まなかったのだろうか。

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