官々愕々「恐怖の3点セット」で、いざ戦争
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憲法解釈上認められないとされていた集団的自衛権の行使を、「憲法解釈を変えて認めよう」と安倍総理が声高に叫び始めた。

戦後日本政府が一貫してとってきた解釈を変えて、憲法の内容をこれまでと正反対のものにしようとしているのだが、それによって本当は何が起きるのかが国民にはよく理解できない。

政府がおかしなことをやろうとする時は、まず、全体像を隠すのが常道だ。大目的を達成するために必要な一連の政策をバラバラに提案することによって、国民の「想像力」を限定し、批判を矮小な問題に閉じ込めることができるのだ。今回の「一連の政策」とは何か。

最初に出て来たのが日本版NSC(国家安全保障会議)設置法だ。民主、維新、みんななどの野党が賛成した。議事録作成の議論もうやむやのまま終わっている。この時点では、野党も問題の核心を理解していなかった。

次に出された特定秘密保護法の議論でも、知る権利、報道の自由などの議論は盛り上がったが、NSC法や集団的自衛権との関係はほとんど議論されないまま成立してしまった。

しかし、実際には、集団的自衛権の行使容認とNSC法、特定秘密保護法には、一つの共通目的がある。そして、実際の安全保障政策の決定現場において、複合的にその力を発揮し、個別の議論では想定できない驚異的な効果を呼ぶ「恐怖の3点セット」となるのである。しかし、その問題点は、「想像力」を発揮しないとわからない。

例えば、「イランが米国に先制攻撃しようとした」と称して米国がイランを先制攻撃する。「これは自衛戦争だから日本も参戦して欲しい」とオバマ大統領が安倍総理に電話する。直ちに、閣議ではなく日本版NSCが開催される。NSCはたった4人の大臣だけで決められる。米国から提供される情報にはガセネタが多いというのがこの世界の常識だが、米国からの情報は特定秘密になって、外部はおろか内部の検証も十分にできない。

ある大臣が反対しても議事録は作成されないから無視しても表には出ない。反対する大臣が他の大臣に働きかけて共同記者会見をしようとすれば、特定秘密保護法で秘密漏洩の共謀・教唆犯になる。こうして、安倍総理はやすやすと参戦を決めることができる。

つまり、この3点セットは、無用な戦争に巻き込まれるという「誤った判断」を助長するための制度になるのだ。

さらに想像力を働かせよう。イランは日本を攻撃していない。日本人に好感を持つイラン人も多い。そのイラン人を自衛隊が殺害するのだ。戦争だから、民間人、母親と子どもたちまでが巻き込まれ、日本人が「殺す」ことになる。もちろん、何百、何千という自衛隊員も殺される。自衛隊員といっても、日本人誰かの家族であり友人である。中東の国を攻撃したことにより、米国のように、いつテロに遭うのかと怯えて暮らさなければならなくなる。日本の強大なソフトパワーの基盤となっていた平和国家のイメージも根底から覆る。「殺し、殺される国になる」、その覚悟が日本人の一人ひとりにあるのだろうか。

私が決めますと安倍総理は言い、閣議決定の前に国会で議論しろと野党が言う。「冗談ではない」と言いたい。これほど重大な決定を内閣や国会に任せるなど論外である。憲法改正手続きで、最後は国民投票で決めるべきであるのは、自明のことではないのか。

この先には、武器輸出、国防軍、徴兵制という3点セットが待っている。安倍政権の掌に乗って弄ばれる野党とマスコミが情けない。

『週刊現代』2014年3月22日号より

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原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

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