文科省が大学中退実態を本格調査
非正規雇用増加の要因にも 無視できない社会的損失[教育]

大学の入学式では希望に胸を膨らませていても中退する学生がいる=東京都千代田区の武道館で=13年4月12日(本文とは関係ありません)

これまでタブー視されてきた「大学中退」について、文部科学省が本格的に対策に乗り出すことになった。大学の中退者は少なくとも年間6万人以上とみられ、フリーターなど非正規雇用増加の要因になっているなど社会的損失が大きい。同省は今年度から毎年、継続して全ての国公私立大を対象に実態を調査し、背景など詳細を分析。中退防止策を探るとともに就職状況の改善にもつなげたい方針だ。

調査は、全大学から中退者数や中退理由を回答してもらい内容を分析する。大学の中退者を巡っては、同省が2009年に、リーマン・ショック(08年)の影響を調べるため07、08年度分を調べたことがあるが、その後、調査はしていない。全国の小中学校、高校、大学などを対象に同省が毎年実施している「学校基本調査」でも、大学の入学者数と卒業者数は調べているが、中退者に関する項目はない。

同省によると、07年度の中退者は、高等専門学校を含めると約6万3000人、08年度は約6万9000人(推計値)。私立大での中退率は平均3%前後ともいわれている。

厚生労働省の外郭団体「労働政策研究・研修機構」が11年に東京都内在住の20代約2000人を対象にした「第3回ワークスタイル調査」では、大学中退者(専門学校含む)の就職状況は「一貫して非正規雇用」が約5割で最多。「無職」も14%あった。「正社員に定着」はわずか1・7%にとどまった。大学にとっても学費が100万円の場合、年間100人の中退者が出れば総額1億円の損失になる。

文科省が本格調査に乗り出す背景には、13年6月に「子どもの貧困対策法」が成立したことも大きく影響している。同法は子どもの貧困の解消や次世代への貧困の連鎖の防止などが狙い。中退には貧困が関連していることも指摘されている。対策の一つとして、返済不要な「給付型奨学金」の創設も急がれる。日本では卒業後に返済する「貸与型奨学金」が一般的だが、近年は景気の悪化とともに、卒業後に返済できないケースも目立ち、延滞と厳しい取り立てが問題化している。

背景に経済的理由、学力不足

最近は、どの大学も中退防止対策に力を入れてはいる。静岡産業大(静岡県)は10年近く前から学生約10人につき1人の教員が「アドバイザー」として付き、授業への出席率が悪ければ面談して悩みを聞き、対応策を考える。いわゆる「担任制」だ。保護者の協力も不可欠とし、年2回、希望する保護者を対象に相談会も開く。担当者は「中退率は経済情勢に左右されることもあり大幅に下げるのは難しいが、できることをやっていくしかない」と話す。

中退には「授業についていけない」という学力不足が要因のケースも少なくない。大学は希望すればどこかの大学には入れる「全入時代」に入った。中退問題に詳しい船戸高樹・九州共立大教授は「大学は昔のようなエリートだけの教育研究の場でなく、多様な学生が入学するようになったことも背景にある」と話している。入学前教育や1年生の時にリメディアル教育(中学・高校レベルの学び直し)を実施する大学も増加。「日本リメディアル教育学会」の11年調査によると、全大学の7割超が実施している。

このほか、中退率などを積極的に公表する大学も出始めた。これまでは「学生募集の障害になりかねない」などとタブー視されてきた面が強かった。しかし、武蔵大(東京都)は2年前からホームページ(HP)で学部ごとに年間の退学者数と中退率を公表している。当初、学内で反対意見もあったが「受験生が知りたい情報」(広報担当者)と公開に踏み切った。

九州産業大(福岡県)も12年度分から各学部の学年別中退者数・中退率をHPで公表。広報課は「高校の進路指導教諭が着目するのは『中退率』と『就職率』とも聞く」と情報発信の重要性を強調する。

ただ、こうした公表の動きはまだ限定的だ。文科省は14年度から、国公私立大に関する情報をデータベース化し、受験生らがインターネット上でそれらを閲覧できる情報サイト「大学ポートレート(仮称)」の運営を始める。情報項目には、入学者数▽卒業者数▽入試方法▽学部の特色▽奨学金額――などが含まれるが、「中退率」に関しては「数値が独り歩きする可能性がある」として見送られた。

文科省が本格的に開始する調査・分析がどこまで実態に迫れるかは不透明だ。07、08年度の調査では、中退理由も調べた。08年度は「経済的理由」が15・6%で最も多かった。07年度で最も多かったのは「転学」(14・9%)だったが、「経済的理由」(14・0%)とほぼ割合は変わりなく、今年度以降の調査でも、中退の理由として、経済的理由は上位に挙げられる可能性はある。

しかし、独自に中退者の実態調査や大学の中退対策支援をしているNPO法人「NEWVERY」(東京都豊島区)の山本繁理事長は「経済的理由よりも『ミスマッチ』が主因だ」と指摘する。山本理事長によると、中退の理由は、教育内容・方法が合わない▽学力不足で授業についていけない――などが目立ち、中退者の7割近くは大学1年の段階で何らかのつまずきがあるという。

つまずきがあると、授業に出席しなくなる→必要な単位を取れない→留年を繰り返す、という悪循環に陥り、最終的には学費が払えなくなって中退に至るケースがみられるという。この場合は、「経済的理由」に分類されてしまっている可能性もある。

山本理事長は「高校の進路指導で、自分に合った大学が見つけられる機会を生徒に提供するとともに、大学側も教育内容・方法を在籍する学生に合わせる必要がある」と指摘。国語専門の大学受験塾「鶏鳴学園」(東京都文京区)の中井浩一代表は「入試で入った大学のレベルで固定されてしまうのではなく、在学中でも能力がアップすれば上のレベルの大学へ、逆に能力が落ちたり、合わなかったりした場合は別の大学へ移れる仕組みも必要だ」と、入学後の進路変更・転学がしやすくなる仕組み作りの必要性を求めている。
 

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