現代新書
特別寄稿『ブラック精神科医に気をつけろ!』 
 第3回 うつ病キャンペーンの自作自演

読売新聞東京本社 医療部記者 佐藤光展
うつの痛みに関する調査が製薬会社主体で行われたことを示す資料。奥はこの調査を使用した准教授らの英語論文

「うつの痛み」キャンペーンの新たなる疑惑 

 この連載の最初に取り上げた不適切な「うつの痛み」キャンペーンには、さらに深刻な問題があった。製薬会社2社が「うつの痛み」の根拠として用いた医師の学術論文は、実は2社が広報目的で行った調査を使用したもので、製薬会社の「自作自演」とも言える啓発活動だったのだ。
2月19日の読売新聞朝刊第3社会面で、この続報を掲載した。オリンピックや大雪の余波などのニュースで目立たず、見逃した人も多いと思うので、ここで改めて取り上げてみよう。

 塩野義製薬と日本イーライリリーが行ったこのキャンペーンは、2013年秋から2014年2月初めまで続いたテレビCМのほか、インターネットサイト(一般向けと医療関係者専用サイト)や新聞広告などで展開された。
「うつ病患者の68・6%が、体の痛みがうつ病の回復を妨げると感じている」。2社がキャンペーンで強調したこれらのデータの根拠として示したのが、高知大学病院精神科准教授らの英語論文だった。うつ病患者663例、医師456例のインターネット調査を分析した内容で、2012年、米国精神病理学会の学術誌に掲載された。


「詳細なインターネット調査にテキパキと回答できるうつ病患者とはどういう人たちなのか?」という根本的な疑問はさておき、論文には、この調査は高知大学神経精神科学教室が市場調査会社と共同で行ったと書いてある。ところが更に調べてみると、調査主体は「『うつの痛み』情報センター」と分かった。
 

 これは、2社が「うつの痛み」をPRするために作った広報組織で、論文の元となったインターネット調査は、情報センターが2010年に実施したものだった。准教授はこの調査の「監修」役だった。

精神医療の暗黒面を描いた問題作『精神医療ダークサイド』。現実の話とは思えないブラック精神科医の衝撃的なエピソードが満載

 患者が置かれた厳しい状況を製薬会社が調べ、「情報センター」を作って疾患啓発を行うこと自体に問題はない。見逃されがちな希少疾患患者の苦しみなどが、製薬会社の独自調査で浮かび上がることもある。背後に自社製品の売り込みがあることを記者が認識しつつ、こうした情報と向き合えば、それほど間違った報道にはならないだろう。

 だが、今回のキャンペーンは明らかに一線を越えていた。2社は調査データを准教授に提供し、英語論文にした上で、自社調査であることを伏せてキャンペーンの権威づけとして利用したのだ。さらに、国際的な診断基準にはない症状を、あたかもうつ病の主症状であるかのように伝えるなど、自社製品に有利な不適切情報を発信し続けた。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら