森氏の「大事なときには必ず転ぶ」発言は安倍総理外交に対する「掛け言葉」?!」ほか
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol031---くにまるジャパン発言録より
〔PHOTO〕gettyimages

邦丸: 佐藤さんは、ソチ・オリンピックはあまり熱心にご覧になってはいないですか。

佐藤: 私は昔から、「体育」と「図工」には縁がないので。

(略)

邦丸: (略)浅田真央さんはショートプログラムで非常に残念な結果に終わったわけですが、フリーで見事に挽回して、メダルには届かなかったんですが、それにしても素晴らしかった。浅田真央さんという一人の女性アスリートがやったことによって、日本じゅうのみんながホッとする。ああ、跳んでくれた、ああ、よかったって思うのは、何なんでしょう。距離は日本とロシアで離れていますけれど、一体感というか、連帯感というか、何なんでしょうね。

佐藤: すごい勉強になるんですよ。要するに、人生には一回は失敗があるじゃないですか。そのときにキュッとやり直せるんだという物語を見せてもらったから。

邦丸: なるほどね。いろいろなものを背負って生きている女性への同情もあるんでしょうけど。

佐藤: 悪気はないんでしょうが、なんだか「いじめるおじさん」もいたりしますからね。

(略)

邦丸: ねえ。日刊スポーツにも大きく出ています。森(喜朗)元首相が「あの子、大事なときには必ず転ぶ」発言。2月20日、福岡市内のホテルで「東京オリンピックと安倍外交」をテーマに講演した際に、「頑張ってくれと見ていましたけど、真央ちゃん、見事にひっくり返りました。あの子、大事なときには必ず転ぶんですね」と発言した。

佐藤: それ、私はもうちょっと深読みしているんです。真央ちゃんの名前を出したことは、森元総理は本当にけしからん。非常に尊敬して、親しくさせていただいている人ではあるんですが、私もそう思いますよ。ただ、講演のテーマは「外交」でしょ。ということは、別の人を指しているんじゃないですか。大事なときに必ず転びそうな人がいるということですよ。

(略)

邦丸: 日本の政治家のなかで・・・・・・。

佐藤: まさに、今のトップですよ。(略)アメリカとの関係とか。私は森発言は「掛け言葉」だと思いますよ。

伊藤: わあ、深~い!

佐藤: 日米関係で、集団的自衛権とか大事なときに転ぶということですよ。

(略)

邦丸: へえ~。インテリジェンスの世界でいうと、そういうことですか。

佐藤: 安倍総理もそのように受け止めていると思いますよ。

(略)

邦丸: 森さんが意図的に安倍さんに発しているのだとすれば、ツルンと口が滑ったということではないのかもしれませんが、われわれ生きていれば、本意と異なるようなことが、ぽろっと口から出ちゃうことがありますね。「口が滑る」と言いますけれど。

佐藤: しかし、本意とは異なると言いつつ本意がぽろりと出たときが、いちばんヤバいんですよね。

伊藤: 本音だから出ちゃうんですね。

佐藤: フロイトが『精神分析入門』で、「間違い(錯誤行為)」というのは本当のことで、「意図しているのにそれを抑圧している」ことが出てしまうものだと書いています。(略)だから「ぽろり」は意外と怖いんです。

〔PHOTO〕gettyimages

深読みジャパン

伊藤: 朝日新聞1面です。「安倍総理、集団的自衛権の答弁で危うい独走」安倍晋三総理が昨日の衆議院予算委員会で、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更について、従来の政府見解を大きく踏み越えた答弁を繰り返しました。

憲法を変えずに政府が積み上げてきた解釈を変える「解釈改憲」を既成事実にするのが狙いと見られますが、総理の私的諮問機関の結論や与党内の議論を待たず、解釈改憲を閣議決定で行う考えや自衛隊法改正にまで言及するほどの前のめりぶりです。

安倍総理の「最高責任者は私」や「閣議決定で決める」という答弁に、集団的自衛権の行使に慎重な公明党の危機感はとりわけ強く、「解釈改憲が許されるのか」の議論も深まらないままです。海外の政府・メディアは、こうした総理の姿勢に批判の目を向けています。

佐藤: 解釈改憲──こういう憲法の考え方というのは、実は例があるんです。オットー・ケルロイターというドイツの法学者がいたんですが、日本語でも本が出ています。戦前、岩波書店から出ている『ナチス・ドイツ憲法論』という本です。

ドイツには「ワイマール憲法」という民主的な憲法がありましたよね。あの憲法を改正するには、手続きがものすごく大変なんです。ですから、憲法と違う法律や解釈をどんどんつくっていけば、憲法を改正することなく、成文化されていない「ナチス憲法」ができる──こういう考え方で、これがオットー・ケルロイターが唱えた憲法理論なんですね。安倍さんの「解釈改憲」は、これと発想がそっくりなんです。

(略)

それがかつての麻生(太郎副総理)さんの「ナチスの手口に学べばいい」という発言(2013年7月、都内で行われたシンポジウムで「憲法は、ある日気づいたらワイマール憲法がナチス憲法に変わっていたんですよ、誰も気づかないで変わった、あの手口、学んだらどうかね」と発言)と合わさって、日本はナチスの法律観を持っているんじゃないかと、今、世界中から疑われているんですよ。

しかし、安倍さんはそんなことは考えていなくて、やりたいことをやりたいと思っているだけなんです。これは率直に言うと、大学生のときに「憲法学」をきちんと勉強していないんだと思う。

だから、立憲主義──「憲法」というものは政治家を抑えるものなんだ。内閣が替わったからといって、憲法の解釈というのは変わるものではない。だから法律が必要で、法律の法律であるところの憲法をもって、政府のやっていることが適法であるかどうか、あるいは国会でつくった法律が適法かどうか、違憲法令審査権によって裁判所が判断するんだということ──の基本構造を勉強していないんだと思う。だから安倍さんの発想は、国家公務員試験に合格したり、司法試験に合格したり、地方公務員試験に合格したりした人なら絶対に出てこない発想です。

邦丸: 安倍さんが以前おっしゃったのは、独裁君主の専制国家ならまだしも、今の日本において、憲法解釈とか憲法改正とかに対してナーバスな反応はいかがなものか、ということでしたね。


佐藤: しかし、ワイマール憲法というのは最も民主的な憲法だったわけですよね。ワイマール体制だったときのドイツの制度というのは、専制主義ではありませんでした。

したがって、選挙を経てヒトラーが第一党になったんです。そうしたら、まず全権委任法、それから国防法、最後はニュールンベルグ法といういわゆる純血法までつくって、アウシュビッツへの途を整えた。

国際社会から見たら、これと今の日本は二重写しなっちゃうんですよ。これが安倍さんには見えていないんですね。

ですから、主観的にどう思っているか、その論理が立憲主義から離れているという問題もあるんですけれど、それ以上に、国際社会からはこのままいくと日本はナチスと同じだと見られてしまいますよ。

でも、日本国内では「我々の総理大臣をなんでそんなに悪くとるんだ。ふざけるんじゃねえ。毅然とやってやれ」なんていう感じになる。私も外国の見方に対しては、もう少し日本の内のことをよく見てくれと思いますし、安倍さんはあまりよくわかっていないままに発言しているところもあるんだということを強調したいですし、実際、外国人と会うときはそう言っているんですけどね。でも、「悪意の想定」が始まっちゃっているんですよ。

邦丸: 悪意の想定?

佐藤: はい。国際政治において中国のプロパガンダが効いている、それから「籾井(勝人・NHK新会長)発言」(略)なども効いている。国際社会で日本は、昨年の12月26日から急速に孤立を強めているんです。

邦丸: 安倍総理が靖国参拝した日からですね。

佐藤: そうです。靖国に参拝すること自体は、英霊を顕彰する、あるいは追悼するということですから、この問題だけだったらそんなに大変なことにはならないんですけれど、「価値観」の問題になっちゃっているんです。

日本は価値観が異なる国なんじゃないか。第二次世界大戦後の国連で認められている価値観と違う、旧敵国の価値観を持っているんじゃないかということになっちゃっているんですね。

佐藤: それと合わさっているのが、今回、安倍さんがソチ(オリンピック開会式)に行ったことです。今、世界の嫌われ者になっているロシア。そのロシアと波長が合っているということは、やっぱり変な人たちなんじゃないか──こういう感じになっているんですね。

なんか、安倍さんのやることなすことが、全部裏目に出る。ただ、日本国内では、まあまあうまくやっているんじゃないかというふうに見える。このギャップが怖いんです。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら